犬と旅人

昔あるところに犬が一匹いました。
犬はいつも一匹で街を歩いていました。
ねぐらはよく変わりました。
ある時、引っ越ししていると途中で倒れてしまいました。
すると、旅人が通りかかって頭を優しくなでてくれました。
「引っ越しで疲れて何もかもがいやになってしまったのです」犬は言いました。
「おなかがすいたんだろうね。元気の出る果物があるから食べるといい」旅人は言いました。
「食べる気がしないのです」犬がぐったりして、旅人は仕方ないので果物をおいしそうにほおばりました。
あんまりおいしそうに食べるので、犬は見とれてしまいました。
「一口食べてみるかね」
犬がつられて一口ほおばると、みるみるうちに元気が出て、「ぽう、ぽう」と吠え出しました。
旅人は犬の引っ越しを手伝い、犬は右に左に案内しました。
犬のねぐらはこのあともよく変わりました。
しかし、もう一匹で街を歩かなくなりました。
だって、旅人がずっとずっと一緒でしたから。
犬と旅人

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 犬と旅人
◆ 執筆年 1997年