通学路
私は高校一年生の女の子。温暖化で温かくなった地球の日本の小さな田舎街で自転車をこいでいる。冬が寒くない。雪がまったく降らない。こういうことをよく耳にするようになった。それは車で通勤する大人の言葉だ。私は寒くて辛い。それなのに、スカートを短くして、肌を冷たい大気にさらさなければならない。それでもそういうスタイルにしないと、学校で浮いてしまう。電話が来た。携帯を耳に当てる。友達だ。別に用があるわけではない。誰かと話すことで安心したいのだ。私も何となく安心する。つい話に夢中になって、ふと前を向いたら怖ろしいものが目に入った。車に轢かれた動物の死体だ。ブレーキは間に合わなかった。それに乗り上げて止まった。気持ち悪い。なぜだか逃げるようにしてまた自転車をこいだ。そうしたら信じられないことが起きた。前輪にからみついたそれが離れなくなって動けないのだ。もう頭は真っ白。降りて、縁石でこすっても、靴で踏んでもとれない。もういや。遅刻しちゃうから、最後は手で引っ張ってみた。そしたら、自転車の前輪から取れたけど、今度は私の手に貼り付いちゃった。何か生きているみたいに動いている。私の苦手な海の生物みたい。やだ! 猫だか犬だか分からないけど、そのお腹から赤黒い腸がはみ出て、寒さで真っ赤になった私の太ももから伝って、足首までだらだらと流れ落ちた。学校に遅れそうになるときの朝に限って、悪夢のような現実が襲ってくるのを夢に見るが、今朝の悪夢のような現実もその夢であってくれるといいと思った。
完
