タベテミテ
月明りに照らされて夜の街に出た。どうしても欲しいものがあるが、何だか思い出せない。人の目があると自分の歩き方が気になって仕方がない。僕の顔はピエロに見えないだろうか。
赤いネオンの看板の店の前でキョロキョロしてしまった。おどおど、こそこそ、えへえへ。犯罪者には見えないだろうか。
気を取り直して、肩で風を切り、自動扉を抜ける。
「やい! ヌードルも缶コーヒーも、雁首そろえて俺に選び取られる幸運にありつけるまでじっとしていやがれ!」
もしもこんなことが言えたら、きっと心の中のもどかしさが全部きれいに霧消するだろうと思う。
端正な顔立ちの少女が黄色いカゴをぶらさげて、陳列棚の隅に並べてある箱を手に取った瞬間、ちらと僕の目をのぞき込んだだけで駄目だった。僕はハラハラと散り行くチェリー・ブラッサムに押し潰されたいとさえ感じた。そのあとの自分の足取りは覚えていない。気が付くと僕は少女が売物を手に取った陳列棚の前に立っていた。香も残さず、少女は勘定を済ませてミルク色の大通りに出ていった。目を落とすと、猫の顔が剥がれるくらいに膨らんで見える写真の箱が並んでいた。
キャットフードだった。僕は急にそれを食ってやろうと決心した。
家に帰りボリボリ食い始めると、波にもてあそばれる軽舟のように頼りなかった僕の気持ちが嘘のように晴れ渡った。
これがあなたのきっかけなのよと、あの少女にささやかれた記憶がよみがえった。
赤いネオンの看板の店の前でキョロキョロしてしまった。おどおど、こそこそ、えへえへ。犯罪者には見えないだろうか。
気を取り直して、肩で風を切り、自動扉を抜ける。
「やい! ヌードルも缶コーヒーも、雁首そろえて俺に選び取られる幸運にありつけるまでじっとしていやがれ!」
もしもこんなことが言えたら、きっと心の中のもどかしさが全部きれいに霧消するだろうと思う。
端正な顔立ちの少女が黄色いカゴをぶらさげて、陳列棚の隅に並べてある箱を手に取った瞬間、ちらと僕の目をのぞき込んだだけで駄目だった。僕はハラハラと散り行くチェリー・ブラッサムに押し潰されたいとさえ感じた。そのあとの自分の足取りは覚えていない。気が付くと僕は少女が売物を手に取った陳列棚の前に立っていた。香も残さず、少女は勘定を済ませてミルク色の大通りに出ていった。目を落とすと、猫の顔が剥がれるくらいに膨らんで見える写真の箱が並んでいた。
キャットフードだった。僕は急にそれを食ってやろうと決心した。
家に帰りボリボリ食い始めると、波にもてあそばれる軽舟のように頼りなかった僕の気持ちが嘘のように晴れ渡った。
これがあなたのきっかけなのよと、あの少女にささやかれた記憶がよみがえった。
完
