シダ

妖精
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19

 この分では彼は水を飲まずにいるだろう。
 彼はそろそろしびれを切らして、本題に移ろう移ろうともの言いたげな様子を示しだした。
 僕は奥の手を使った。空気士である僕にとって、人の体内の水分を気化させることぐらいお手の物だ。たちまち彼は喉の渇きを訴え、水を飲んだ。
 僕は彼の首から鍵形のペンダントをそっとはずして、二人分のコーヒー代を置いて店を出た。
 次ぐ日、僕は会社を首になった。
 しかし、僕が会社を首になる前の晩、僕はブルーベリーの妖精が妖精でなくなったことを知ることができた。

 僕が三〇歳になる前後数ヶ月間はいろいろなことが起こり、結果として、ブルーベリーの妖精を愛することができるようになった。
 そして、さらに何ヶ月かが経ち、ブルーベリーの妖精は僕の子どもを産み、相変わらずシダやいろいろな植物を育て、僕は自転車で街を走り回り、自分の文章を書き続けた。

 仕事?ああ、僕たちがどうやって生計を立てているかって? さあね。社会人として暮らしていこうという意識さえあれば、いくらでも暮らしていけるものさ。くれぐれも誤解のないように。僕たちは、極めてまっとうに生活しているのだから。
 肝心のタイトルのシダがあまり活躍しなかったって? まあ、そんなに詰め寄らなくても……。いいじゃない、タイトルなんて飾り程度にあれば。正直に言うと、このタイトルはあんまり真面目に付けたつもりはない。でも、タイトルを立派に付けたものが立派な作品というわけでもないしね。まあ、もちろん僕のこの作品は少しも立派なものではないけれども。実のところ、僕は、シダのあのすがすがしい緑のイメージをこの話全体のカラーにしておきたかったのだ。夏の白い部屋にシダがあって、窓から青い空が見えたら気持ちいいじゃない。そういう、夏の涼しい気分を言葉でつづりたかったってことさ。
 なにはともあれ、僕とブルーベリーの妖精の話はこれでひとまずおしまい。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 シダ
◆ 執筆年 1998年