ローカル・コミュニケーション

12
「勘違いするなよ。俺の妹さ。たまには親たちに付き合ってやらないとね。」
早川の両親も店内に入ってきた。本当に似たもの家族である。全身をブランド物で固めているところまでそっくりだった。そろってパラサイト・シングルの兄妹は、給料の大半を衣料品に注ぎこむことのできる、うらやましい身分なのであった。
「早川さん、ごめん。」
敏行は早川を押しのけて、夜の商店街に飛び出した。
事情を知らない早川は、なぜ敏行が、彼女であるはずの加世子を置いて慌てて飛び出していくのか、不思議に思った。
駅に向かう通りを急ぎ足で歩く沙於里の後姿が、敏行の視界に入った。彼は思いっきり駆けた。ほどなく沙於里の後姿に追いついた。彼が何度か呼び止めると、やっと沙於里は足を止めた。敏行はベンチに沙於里を座らせて、事情を説明した。
沙於里は初めのうちは、弁解に耳を貸そうとしなかった。しかし、誠意のある声で、愛しているという言葉をだいたい80回ほど聴くと、気持ちがじわじわと伝わってきた。俺が悪かったという言葉を90回ほど聞いたとき、もう機嫌がほとんど直りかけていることに自分で気づいた。ちょうどいい機会だからと思って、彼女はまだ拗ねている振りをして、わざと無理な注文を付けてみた。
「それがあなたの本心なら、私に分かるような証拠を見せてよ。」
敏行は困ってしまった。証拠を見せろと言われても、見せるようなものなどは思いつかない。
沙於里は、敏行の困り果てた顔を見て、おかしくなってしまった。かわいそうだから、もうこの辺で拗ねるのはやめようと思っていた矢先に、敏行は意を決したように民謡を歌い始めた。かわいいあの子に恋をして、なにがなんでも夫婦になりたいという内容の民謡だった。
透き通るような声が天に昇っていくようであった。通行人の中にも足を止めて、うっとりと聴き入る者が出てきた。
沙於里は、彼の胸に身を預けた。体を通して伝わってくる声の響きが気持ちよくて、誰が見ていても構わないから、ずっとこうしていたいと思った。
早川の両親も店内に入ってきた。本当に似たもの家族である。全身をブランド物で固めているところまでそっくりだった。そろってパラサイト・シングルの兄妹は、給料の大半を衣料品に注ぎこむことのできる、うらやましい身分なのであった。
「早川さん、ごめん。」
敏行は早川を押しのけて、夜の商店街に飛び出した。
事情を知らない早川は、なぜ敏行が、彼女であるはずの加世子を置いて慌てて飛び出していくのか、不思議に思った。
駅に向かう通りを急ぎ足で歩く沙於里の後姿が、敏行の視界に入った。彼は思いっきり駆けた。ほどなく沙於里の後姿に追いついた。彼が何度か呼び止めると、やっと沙於里は足を止めた。敏行はベンチに沙於里を座らせて、事情を説明した。
沙於里は初めのうちは、弁解に耳を貸そうとしなかった。しかし、誠意のある声で、愛しているという言葉をだいたい80回ほど聴くと、気持ちがじわじわと伝わってきた。俺が悪かったという言葉を90回ほど聞いたとき、もう機嫌がほとんど直りかけていることに自分で気づいた。ちょうどいい機会だからと思って、彼女はまだ拗ねている振りをして、わざと無理な注文を付けてみた。
「それがあなたの本心なら、私に分かるような証拠を見せてよ。」
敏行は困ってしまった。証拠を見せろと言われても、見せるようなものなどは思いつかない。
沙於里は、敏行の困り果てた顔を見て、おかしくなってしまった。かわいそうだから、もうこの辺で拗ねるのはやめようと思っていた矢先に、敏行は意を決したように民謡を歌い始めた。かわいいあの子に恋をして、なにがなんでも夫婦になりたいという内容の民謡だった。
透き通るような声が天に昇っていくようであった。通行人の中にも足を止めて、うっとりと聴き入る者が出てきた。
沙於里は、彼の胸に身を預けた。体を通して伝わってくる声の響きが気持ちよくて、誰が見ていても構わないから、ずっとこうしていたいと思った。
完