カサダ

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私は何庄の小作をやっているつまらない男である。小作ではあるが、父は大勢の小作たちのまとめ役をやっている。だから、手づから苗を植えたり、稲穂を刈り取ったりする父の姿を見ることはめったにない。父はこの庄の庄屋に使われて、補佐役をしたり、難しい帳面をにらんだりしている。私も父を手伝って庄屋の屋敷に入っている。こうして仕事を始めてから、すでに数年が経っている。その間に、大方の仕事は覚えた。それで、庄屋にも目をかけられている。それだけではない。庄屋は自分の娘を私に預けるつもりでいてくれる。それほど実際、庄屋は私に期待を寄せていてくれるのだ。しかし、私は今、庄屋の期待を裏切って、屋敷の奥の間で、庄屋から叱られている。庄屋は目の前で、長い間黙っている。さっき、帳場で奥方に呼ばれて、この座敷に入る時、「入れ」と言われたきり、庄屋はその時と同じ姿勢で押し黙っている。どなられる方がましだと私は思い始めていた。
私は、この沈黙の中で、自分のしでかしたことを頭に思い返していた。
昨年の春、私は庄屋の娘と懇ろになった。
丈高く茂った麦畑の周りを散歩しているうちに、どちらともなく身を寄せ合った。既に互いの気持ちに気づいていた。ふたりがいっしょになるには、何の障害もなかった。家柄は、私の方が劣るが、婿入りして庄屋を継ぐことのできる地位を得ていた。何よりも、庄屋の方でそう考える部分が、相当にあるようだった。
そういった状況があって、私は庄屋の娘と、いとも簡単に懇ろの仲になった。私は女と接触するということがこんなに容易であるとは思っていなかった。状況次第では、行灯の火を紙燭に移す程のことにすぎなかった。しかし、その時は私は状況というものは考えになかった。状況などは無関係に、どの娘も容易に懇ろになれるものだと錯覚した。
私は、この沈黙の中で、自分のしでかしたことを頭に思い返していた。
昨年の春、私は庄屋の娘と懇ろになった。
丈高く茂った麦畑の周りを散歩しているうちに、どちらともなく身を寄せ合った。既に互いの気持ちに気づいていた。ふたりがいっしょになるには、何の障害もなかった。家柄は、私の方が劣るが、婿入りして庄屋を継ぐことのできる地位を得ていた。何よりも、庄屋の方でそう考える部分が、相当にあるようだった。
そういった状況があって、私は庄屋の娘と、いとも簡単に懇ろの仲になった。私は女と接触するということがこんなに容易であるとは思っていなかった。状況次第では、行灯の火を紙燭に移す程のことにすぎなかった。しかし、その時は私は状況というものは考えになかった。状況などは無関係に、どの娘も容易に懇ろになれるものだと錯覚した。