カサダ

猫
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 以来私は、気に入った娘たちに言い寄るようになった。娘たちの中にも私になびく者があった。私は、そういった娘と二人きりになれる状況をつくることに苦心した。何人かの娘と二人きりの時間を持った。しかし、懇ろになるのは別だった。庄屋の娘の時のようには、体が引き合わなかった。こちらが寄ろうとすると、相手は離れていくような気がした。または、私を寄せないよう気を引き締めようとしているみたいだった。
 それでも、周囲は何かを悟ったらしく、私の耳に、私のうわさが入るようになった。私はいつしか、身持ちのよくない男と評されるようになった。
 そして、本当に一人の娘と懇ろな間柄になった。その娘は、はじめ私の関心をひかなかった。むしろ私はその娘を不快に感じていたような気がする。ただ不思議とその娘は私に熱心さを示した。私は、その娘とたまたま二人きりになった。私がどんなことをしようと、娘が許してくれるということが、はっきりわかった。私は気がすすまなかった。しかし、いろいろな娘を知ってみたいという思いが勝ってしまった。私はその娘と懇ろになった。
 娘はまったくの世間知らずだった。娘は、私と庄屋がどんな関係にあるかを知らなかった。また、女の体というものがどういうものかということさえ知らなかった。
 女は、あっさり身ごもってしまった。それを喜んだ。そして、自分の親に幸福感に満ちた顔で報告した。その目はすぐに泣きはらした。腹の子は、捨てることが決定した。私の仕業は庄屋の耳に入った。それで、私は今こうして庄屋の前に堅くなって座っている。
 私が畳のへりを見つめながら、自分のしでかしたことを思い返していると、やっと庄屋が口を開いた。思いのほか、穏やかな声だった。
 「俺は今の嫁をもらう前、もっとずっときれいな嫁を持っていた。磯良と言った。きれいな娘だった。本当にきれいな娘だった」
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 カサダ
◆ 執筆年 2001年7月8日