カサダ

猫
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 「なんだ見てたのか。そう、あんまり酒が進まなかった。お前のような女が早く注ぎに来ないからだ」正太郎は、杯を一口で半分乾した。
 「お世辞がうまい方ね。私みたいなのが注いだらお酒がまずくなると思って、遠慮してたのよ」
 こんなふうに、不思議と二人の会話は進み、正太郎は我知らず酒量が増えた。会合がお開きになった頃、正太郎は完全に寝込んでしまった。正太郎を無理矢理外に連れて行こうとしたが、なかなか目を覚まさなかった。そこへ、先程の遊女が、しばらくここで休ませてやったらどうかと、助け舟を出した。それで、店が少しの間、正太郎を預かることになって、参集者は一応安心して帰途についた。
 正太郎が目覚めると宴席はすっかり片づけられ、広い部屋の畳の上の布団に寝かせられているのがわかった。
 正太郎が上半身を起こし、酔いの抜けかけた頭をぐるぐる回していると、奥から声がして、遊女が入ってきた。
 「どう、酔いはすっかり覚めた?」
 正太郎は適当に返事をして、しばらくそのまま布団の中で座り込んでいた。遊女は近くの畳に横座りになって、とりとめのない話をしだした。それがちょうど酔い覚ましによく、正太郎は気分が明るくなっていった。
 正太郎はしかしだんだん落ち着かなくなってきた。半分興奮状態であったので、理性を失いかけたのだ。遊女は自分を誘っているのではないかとも思った。ほんの一回のことなら構わないだろうと、自分に都合のよいことまで考え出した。
 「どうするの? 帰れる?」
 遊女にいざそう言われると、正太郎はがくがく迷いだした。
 「泊まってく?」いたずらっぽい目で笑った。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 カサダ
◆ 執筆年 2001年7月8日