カサダ

猫
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 「お若い方、拙僧もともに膳に向かってよろしいかの」
 落ち着いた、低い、しっかりした声だった。日に焼けて、目が鋭く、体つきが頑丈そうな老人だった。年齢は見当がつかなかった。
 「ええ、もちろんです」
 正太郎は内心、この僧と一緒の食事は気詰まりな気がして、気が進まなかったが、断るのもどうかと思い、並んで朝食の間に入った。
 黙々と飯を食っているうちに、僧がぼそぼそ話し出した。
 「お若い方、面識のない者が急に言い出すのもどうかと思われるが、怒らずに聞いてくれるか」
 僧が何を言い出すのか要領を得ぬ顔で正太郎がうなずくと、僧は話を続けた。
 「わしは国から国へ修行をしている身だが、この国へ入って、昨日あたりから胸が騒いでのう。常は野宿をするのだが、托鉢をして受けた金がいくらかたまっていたこともあって、この宿に入ったんじゃ。入った時、体中がぞくぞく震えたのはどういうわけだったか。そして、おぬしと同室させてもらうことになった。おぬしの顔を見て、また体が震えた。わしは、経を唱えることしか思いつかなかった。わしが経を唱えると、おぬしはすぐに寝入ってしまった。そして、おぬしの顔は次第に落ち着いていった。それまでのおぬしは、我を忘れてしまっているようだった。周りにあるものが目に入らないようだった。違うか?」
 正太郎は素直にうなずいた。
 「おぬしは、わしの話を素直に聞いてくれるんだな。しかし昨夜なら、わしが何を言い出しても、耳に入らない様子じゃったのう。おぬし、ひとつ落ち着いて聞いてくれるか?」
 正太郎は僧の鋭い目から目を離さずに、大きくうなずいた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 カサダ
◆ 執筆年 2001年7月8日