カサダ

12
正太郎は身の回りのものをまとめて、生家に急いだ。数日歩いて、あと一日程で到着する日の朝、宿屋の寝床から起き上がって、ふと考えた。しかし一体、俺はどんな顔をして、父、母に会い、どんな言葉を磯良に言えばいいのだろうか。おめおめと戻れるはずはなかったではないか。どうしてそんなことに気づかずに出てきてしまったのだろうか。
正太郎は実際、不思議で仕方なかった。そういうことを一度も思い浮かべずに、こうやって生家に戻ろうとしたことが。今日、目覚めてはじめてそういう疑念を抱いたのだった。我に返った、という感じだった。そして、それだからといって、今さら引き返そうという気はない。妙に生家に戻りたい。磯良の顔を見たい。なんだか体が勝手に引き返そうとしているようだった。腹が減っていた。正太郎は寝床から立ち上がって、座敷を出ようとして、同室の旅人にやっと気づいた。
座敷の隅に旅人はあぐらをかいていた。この一人の旅人が同室だったことを、正太郎はすっかり忘れていた。確かに昨夜、宿に入ってしばらくして、女中がこの男を座敷に案内しに来た。しかし、疲れてすぐ眠ってしまったため、男とは口もきかずに朝まで一切関心を示すこともなかったのだ。
男は僧侶だった。目を閉じてぶつぶつ小さくつぶやいていた。そう言えばこの僧は、昨晩座敷に入ってすぐこのように座って何かつぶやきだしたのではなかったか。そうすると、自分は急に疲れを感じて床に入ってしまったのではないか。正太郎はそんなことを思い返した。
目が覚めた時も、かすかなつぶやきが耳の中で繰り返されていたような気がした。正太郎がそんなことをぼんやり思いながら座敷を出ようとすると、僧が呼び止めた。
正太郎は実際、不思議で仕方なかった。そういうことを一度も思い浮かべずに、こうやって生家に戻ろうとしたことが。今日、目覚めてはじめてそういう疑念を抱いたのだった。我に返った、という感じだった。そして、それだからといって、今さら引き返そうという気はない。妙に生家に戻りたい。磯良の顔を見たい。なんだか体が勝手に引き返そうとしているようだった。腹が減っていた。正太郎は寝床から立ち上がって、座敷を出ようとして、同室の旅人にやっと気づいた。
座敷の隅に旅人はあぐらをかいていた。この一人の旅人が同室だったことを、正太郎はすっかり忘れていた。確かに昨夜、宿に入ってしばらくして、女中がこの男を座敷に案内しに来た。しかし、疲れてすぐ眠ってしまったため、男とは口もきかずに朝まで一切関心を示すこともなかったのだ。
男は僧侶だった。目を閉じてぶつぶつ小さくつぶやいていた。そう言えばこの僧は、昨晩座敷に入ってすぐこのように座って何かつぶやきだしたのではなかったか。そうすると、自分は急に疲れを感じて床に入ってしまったのではないか。正太郎はそんなことを思い返した。
目が覚めた時も、かすかなつぶやきが耳の中で繰り返されていたような気がした。正太郎がそんなことをぼんやり思いながら座敷を出ようとすると、僧が呼び止めた。