カサダ

27
庄屋も奥方も今まで人生の裏側を片鱗でも見せることはなかった。これは庄屋や奥方に限ったことではないのだろうか。誰もがそうなのだろうか。世間の人々は誰もが裏側の苦悩を見せずに生きているのだろうか。それにしても庄屋のような体験は聞いたこともない。
「こんな奴だから、俺にはお前に、女道楽を戒めることは言えない。ただ自分の経験したことを話すだけしかできない。他人に戒められても、辛抱できない奴は何度でも同じ間違いを犯すものだ。ただこれだけは知っといてくれ。あの時の磯良を思うと、俺の胸はとても痛むんだ。磯良は道楽息子の胸の痛みだ。多かれ少なかれ、男というものは誰もがこういった胸の痛みを抱えているのだろうか」
それで、庄屋の話は終わった。庄屋は結局私を直接戒めないで、話も中途半端なままで、「もう下がれ」と命令した。庄屋に言われて私は座敷から出た。そしてぼんやりと土間で草鞋を履いていると、奥方に声をかけられた。
「ご苦労ね。しっかりお灸を据えられたかしら? あなた、娘をしっかり守ってちょうだいよ。あなたは聞き分けがいいから大丈夫だと思うけど、旦那様のようになると本当に大変なことよ」
そう言って奥方は私にほほえんだ。私は、庄屋の話に出てきたおみつのことを思い浮かべて、体が堅くなった。
「こんな奴だから、俺にはお前に、女道楽を戒めることは言えない。ただ自分の経験したことを話すだけしかできない。他人に戒められても、辛抱できない奴は何度でも同じ間違いを犯すものだ。ただこれだけは知っといてくれ。あの時の磯良を思うと、俺の胸はとても痛むんだ。磯良は道楽息子の胸の痛みだ。多かれ少なかれ、男というものは誰もがこういった胸の痛みを抱えているのだろうか」
それで、庄屋の話は終わった。庄屋は結局私を直接戒めないで、話も中途半端なままで、「もう下がれ」と命令した。庄屋に言われて私は座敷から出た。そしてぼんやりと土間で草鞋を履いていると、奥方に声をかけられた。
「ご苦労ね。しっかりお灸を据えられたかしら? あなた、娘をしっかり守ってちょうだいよ。あなたは聞き分けがいいから大丈夫だと思うけど、旦那様のようになると本当に大変なことよ」
そう言って奥方は私にほほえんだ。私は、庄屋の話に出てきたおみつのことを思い浮かべて、体が堅くなった。
完