ロコモーション

BEETLE
prev

12

 剛はいろいろな音楽機材がセットされるのを、面白そうに眺めていた。たくさんのコード、たくさんのスタンド、たくさんの道具が複雑に入り組んでいて、剛にはどこがどうつながっているのかまったくわからなかった。よくこんがらがらないで組み立てられるものだと、彼は5人を尊敬した。
 5人が音を合わせたり、音量を調節したりしていると、ちらちら人が集まってきた。5人に負けずに派手な格好の人もいれば、行儀のよい服装の人もいる。
 魚屋の娘の恵が持ってきた氷をポリエチレンの大きなバケツに入れ、そこに冷やしておいたビールやジュースを美智子が手際よく、そして愛想をふりまきながら配っている。
 学業以外の活動についてはどの親も資金を与えてくれなかった。もっとも資金を与えようとしたら彼らがそれを許さなかった。恵や辰吉はきっぱりと断る性格でもないのだが、正幸が強い影響力をメンバー全員に及ぼしていたから、彼らも知らないうちに自立心が芽生えてきたのかもしれない。彼らは、車も楽器も服もバイトの収入で買いそろえ、ライブが近づくとバイトの数を増やす。それでもし成績が落ちたら彼らは活動を中止する約束になっているから、彼らは寝る間も惜しんで勉強している。そんな苦労の中から、ライブの観客にビールやジュースをだしているのである。
 客は彼らの予想以上にやってきた。今まででいちばん多かっただろう。ざっと、80人から100人集まったところで、彼らの演奏は開始された。炎天下だ。
 恵の力強いベースがはじけて、ロコモーションを美智子がはりのある声で歌った。正幸が正確なリズムを刻んだ。ファニー・フェースの愛くるしい宏美が左右に髪をふりながら、ギターを美しい音色で弾いた。観客から見てボーカルの右にギター、左にベース、魅力のある3人の女の子がいきいきと演奏し、歌っている様子は、人々を夢中にさせた。恵のベースが低くうなる。宏美のギターがキーンと鳴る。美智子のボーカルが熱を帯びてくる。恵と宏美がコーラスを入れる。観客の体温が上昇する。間奏に辰吉のしびれるようなサックスが入る。辰吉はとても楽しそうに吹いている。正幸は涼しそうな顔で体をめいっぱい使ってドラムをたたく。すきのないリズムが、ピシッ、ピシッと人々の胸に刻まれる。
 剛は口をぽかんと開けてみとれてしまった。さっきまでごく普通の話をするだけの、やさしくて楽しいお兄さん、お姉さんが、テレビの出演者のように格好良くなってしまったので、彼はあきれてしまった。剛のような子どもでなくても彼らの完成度の高い演奏には感心したろう。剛は、ますます彼らを尊敬した。
 彼は特に美智子に目を奪われた。彼には、美智子が世界でいちばんきれいで、華やかで、輝いて見えた。彼女の歌声に心がしびれるようだった。

 Every baby's doing
 a brand new dance now
 (Come on baby do the locomotion)
 I know you'll get to like it
 if you give it a chance now
 (Come on baby do the locomotion)
 My little baby says
 I can do everything
 It's easier than learning your ABC's
 So come on come on
 Do the locomotion with me
 You've got to swing your hips now
 Come on baby
 Jump up, jump back
 Well I think you've got the knack
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ロコモーション
◆ 執筆年 2003年7月27日