ナナの夏

夏の海
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7

 「実は私も転んじゃったんだ」
 「俺だけが泥を浴びたみたいな勢いで言ってたくせに」
 「ごめんなさい」七重ははじけて笑った。「それでね、いい物拾っちゃったんだ。ほら」
 七重が濡れたスカートのポケットから何かを取り出すと、手を広げて見せた。ネックレスだった。
 「きれいでしょ。誰かが落としたのね」
 「流れ着いていたのか」
 真次がぽかんとした顔でつぶやくと、七重は勢い込んだ。
 「これ、あなたのなの?」
 「まさか」
 「じゃあ、誰の?」
 「サークルの女の子さ」
 「彼女?」
 七重がのぞきこむようにしたので真次はたじろいだ。七重の瞳が宝石のように美しかった。今までかわいいと思っていた里美がかすんでしまうほどだった。
 「違う」と、思わず口走って自分で不思議に思った。他の誰かにだったら、こんなに強く否定しただろうか。「彼女なんていないさ」今度は少し語気が弱くなった。
 「本当かなあ? 結構モテそうなのに」
 「モテそう? 俺が?」
 「うん。昼、浜辺で会った時、ちょっとドキッとした」
 真次は黙って七重を見つめた。彼女もそうした。雨が非常に強く降っている音だけがしていた。
 七重は少し恐くなってきた。いつか素敵な男の子と二人きりになり、ロマンティックな時を過ごしたいとは思っていたけど、まさか、そんな、今が? 確かに相手はとても素敵な年上の人。でも、まだ出会ったばかり。
 「どこから来たの?」
 「東京の大学に行ってるのさ」
 「名前は?」
 「滝沢真次。君は?」
 「吉岡七重。みんな、ナナって呼んでる」
 「そう呼んでいいの?」
 「うん」
 七重は少し自分がほどけかかっていることを自覚した。どうしよう、もう戻れないかも。
 「ナナ。急にこんな話をして変なヤツだと思われるかもしれないけど、俺、実は昼間浜辺で会った時から気になっていたし、夕食でまさか一緒の民宿とは思いもよらずに、君が俺らにおひつを持ってきた時には、……縁て、もしかしてこういうものなのかなって思ったよ。だって、ひょんな出会いが一生のことになる例ってたくさんあるだろ。うちの両親もそうだしさ。だから、今日出会ったばかりなのに、二人きりになって、こうしていろいろ話をすることになったのは、単なる偶然とは思えないんだ。不思議に君が好きだ」
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ナナの夏
◆ 執筆年 2004年5月4日