ナナの夏

10
里美は真次の隣に並んで座ってクリームソーダを味わった。
「何を見てるんですか?」
「雲さ」と、真次はとっさに嘘をついた。
「あの雲の形、猫に似てません?」
「えっ、どれどれ。あっ、本当だ。猫みたいだ」
「雲って楽しいですよね。次から次へと形が変わるから」
水際にやっと真次は見つけた。もちろん他のものであるはずがない。ナナを。でも遠いのでまだはっきり断定できない。真次は早くそれを確かめに行きたかった。すると、はじけるような女の声がして真次はびくっとして振り向いた。
「お二人さん!」
それこそがナナだった。見つけようとすると見つからないで、やっと探し当てたと思うとそれは偽者で、本物は気まぐれに急に近寄ってくる。ナナは今日は、水色のワンピースの水着を着ていた。首には、里美が海でなくしたネックレスを掛けていた。
「ごめんなさい、驚かせたかしら? 通りかかったら気づいたので。お二人、お似合いですよ」
ナナは、とびきりの笑顔を見せて去った。渚で抜群に目立つ少女だった。それを里美は顔をしかめてずっと見ていた。里美の表情にただならぬものを感じた真次は体を硬くした。里美は息をやっと吐き出すようにしてつぶやいた。
「私のネックレスをなぜつけているの?」
真次は黙っているとありもしない誤解を与えてしまうと判断した。
「浜辺に落ちていたんだって」
里美はサングラスで見られるのが気にくわなかった。
「何かこわいですよ。サングラスしてると表情がわからなくて」
真次はサングラスをはずして少し弱気な顔で里美を見た。彼女はどんどん畳み掛けた。
「雨宿りは浜辺でしてたんですか?」
「浜を通る方が近いんだ。帰りはそれで浜を歩いていたらあの大雨で、やっとシャワー小屋にたどりついたら、吉岡さんもね」
「シャワー小屋で」
「他にも何人か雨宿りしていたけど」
「私のために取り返そうとしてくれなかったんですか?」
「言ったけど」と、真次は言いながら、取り返すという言い方にひっかかった。
「けど?」里美は語気が強くなった。
「雨がやんで戻ろうと思ったら忘れちゃったんだ」真次は笑ってごまかそうとしたが、里美はぷっとふくれて目を怒らした。
「ひどいわ。私のことなんかその程度なんですね」
おいおい、よく考えたらまだつき合おうってはっきり言ってないのに、もう恋人気取りになってるよ。真次は、昨日まであんなに好きだった里美をもう突き放して見ていた。
「何を見てるんですか?」
「雲さ」と、真次はとっさに嘘をついた。
「あの雲の形、猫に似てません?」
「えっ、どれどれ。あっ、本当だ。猫みたいだ」
「雲って楽しいですよね。次から次へと形が変わるから」
水際にやっと真次は見つけた。もちろん他のものであるはずがない。ナナを。でも遠いのでまだはっきり断定できない。真次は早くそれを確かめに行きたかった。すると、はじけるような女の声がして真次はびくっとして振り向いた。
「お二人さん!」
それこそがナナだった。見つけようとすると見つからないで、やっと探し当てたと思うとそれは偽者で、本物は気まぐれに急に近寄ってくる。ナナは今日は、水色のワンピースの水着を着ていた。首には、里美が海でなくしたネックレスを掛けていた。
「ごめんなさい、驚かせたかしら? 通りかかったら気づいたので。お二人、お似合いですよ」
ナナは、とびきりの笑顔を見せて去った。渚で抜群に目立つ少女だった。それを里美は顔をしかめてずっと見ていた。里美の表情にただならぬものを感じた真次は体を硬くした。里美は息をやっと吐き出すようにしてつぶやいた。
「私のネックレスをなぜつけているの?」
真次は黙っているとありもしない誤解を与えてしまうと判断した。
「浜辺に落ちていたんだって」
里美はサングラスで見られるのが気にくわなかった。
「何かこわいですよ。サングラスしてると表情がわからなくて」
真次はサングラスをはずして少し弱気な顔で里美を見た。彼女はどんどん畳み掛けた。
「雨宿りは浜辺でしてたんですか?」
「浜を通る方が近いんだ。帰りはそれで浜を歩いていたらあの大雨で、やっとシャワー小屋にたどりついたら、吉岡さんもね」
「シャワー小屋で」
「他にも何人か雨宿りしていたけど」
「私のために取り返そうとしてくれなかったんですか?」
「言ったけど」と、真次は言いながら、取り返すという言い方にひっかかった。
「けど?」里美は語気が強くなった。
「雨がやんで戻ろうと思ったら忘れちゃったんだ」真次は笑ってごまかそうとしたが、里美はぷっとふくれて目を怒らした。
「ひどいわ。私のことなんかその程度なんですね」
おいおい、よく考えたらまだつき合おうってはっきり言ってないのに、もう恋人気取りになってるよ。真次は、昨日まであんなに好きだった里美をもう突き放して見ていた。