豹陣
-中里探偵事務所-

探偵
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「あなたのお名前で、第一資源株式会社に、タイヤの処理を依頼したことになっていますが、これは間違いないでしょうか?」
「これ、ほんとうに私が依頼したタイヤなのですか?」
 と、関は上目遣いに譲をみた。
 譲は、ええと返事をした。しばらく沈黙が続いた。
「しかし、なぜこのタイヤは処分されなかったのですか?」
「警察は、このタイヤが実際に処分されたかどうかを確認しようと考えるほどには、この車の所有者に関心を持たなかったんです。ですから、私一人で第一資源株式会社にいってみました。もちろん私もタイヤが処分されていることは覚悟のうえでした。ところが、私にとっては幸いなことでしたが、機械のメンテナンスにより、処理ラインがストップしていたんですよ。わけを話すと、担当者から簡単にタイヤをお預かりすることができました」
 関はじっと譲の話を聞いていた。
「このことは警察は知りません。自首なされば、刑罰は少し軽くなります。悪いことは申しません。関さん、私から警察にこのことを話す前に、どうか自首なさってください」
「中里様が話さなくても、警察は、タイヤについて疑問を感じて、動きだすでしょうか?」
「それはなんともいえませんね。でも、仮に気づいたとしても、現在タイヤを保管している私が協力しない限りは、警察も動きようがないんじゃないでしょうか」
「しかし、警察から協力を要請されたら、中里様も断るわけにはいかないでしょう」
「それはそうでしょうね。ですから、できる限り早く、関さんに自首してほしいと申しあげているのです」
 関は、急にソファに身を投げだすと、上を向いて、呆然とした表情で息をはいた。もうここまでかとおもった。いままで築きあげてきた人生も、まず幸福といっていい日々の暮らしも、もはやこれまでなのであろう。急に子どもと妻の顔が浮かんできた。すると、やはりなんとかなることなら、なんとかしてみたいという気持ちのほうが勝ってきた。そして、この中里とかいう探偵がなにを考えているのか、もう少し様子をみてみようかという気になってきた。そういう気になると、出方も思いついたので、またソファに座りなおした。
「中里様、先ほどのタイヤの写真は、まちがいなく私が第一資源に依頼したものでしょうか。それを確かめないうちは、ことがことですから、私もどうしようという判断がつきかねるのですが」
 譲はまったく表情を変えずに関の鼻のあたりをみていたが、しばらくすると楽しげに商談しているような口ぶりでいった。
「電話で確認なさいますか」
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 豹陣-中里探偵事務所-
◆ 執筆年 2015年8月