ツェねずみ
-中里探偵事務所-

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場面56
「発見にいたるまで、いつもいつも考えていることによってです。問題をいつも自分の前におき、暁の一筋の光が射し込み、それから少しずつ明るくなり、本当にはっきりしてくるまで、じっと待っているのです」木原武一
『天才の勉強術』
山脇は逸る気持ちを抑えながらオールドマーケットのサイトを閲覧していった。
もちろんパスワードが解ける前にも、何度も何度も閲覧したのだが、また冷静な心境で、同じものを一つ一つ丹念に確認していかなければいけない。そう自分自身によく言い聞かせる。
まずは商品を種類別に検索できるページを開く。
家電、雑貨、ブランド、……と十種類ほどに分類されていた。
家電をクリックすると、「お探しの商品は見つかりませんでした」と表示された。以前確認したときと変わりない。山脇は、次のカテゴリー、次のカテゴリーと、同じことを繰り返す。カテゴリーによっては、いくつかの商品が出て来ることもあるが、たいしたものはない。結局、ネット通販可能な商品は、全部で三十にも満たなかった。これもだいたいのところ今まで通りだった。
山脇は次に「買取」という項目をクリックした。
この内容もすでに確認したものと変わりはなかった。
電話かメールで内容と手数料などを確認したうえで、出張か宅配かを決定するというものであった。
山脇は次に「お手伝いサポート」という項目をクリックしてみた。
不要品の処分、家の掃除、草むしりなどが例に挙げられていたが、それ以外にもどんなことでも相談に応じるとしてある。これも電話かメールで内容や料金を決定するとある。
山脇はその隣の「取引履歴」という項目をクリックした。ここは初めて見る箇所である。胸が高鳴る気がした。
九月に取引記録があった。その取引の詳細を開いた。
記載されている内容は、三項目であった。
一つ目は、取引内容。「業務の代行」とあった。
二つ目は、「料金」。これは「基本料金」「交通費」「手数料」「諸費用」の四項目に記入があり、総計で約百八〇万円であった。
三つ目は、「備考」。これは空欄であった。
閲覧できる内容は以上だった。これ以上は何もわからなかった。それでも、山脇はあきらめず、マウスポインターを隅から隅まで動かし続けた。クリックできそうなところはもちろんだが、一見クリックしても無駄に思えるところまで絨毯爆撃のようにクリックしまくった。店のロゴマークから約3センチほど下部にある画面の左右いっぱいに広がったデザインの右下の隅をクリックしたときだった。突然画面が切り替わったので、山脇は当惑した。しかし、それがどういう現象であるかをすぐに理解した山脇はやはりなと思った。よくあるのだ。背景色などに秘密のリンクを貼り付けるということが。山脇みたいに画面の隅から隅までクリックする人間がいればばれてしまうが、実際そんなことをしたいと思う人間はほとんどいないから、関係者同士のやりとりには安全で簡単で便利なのである。おそらく鴻上はオールドマーケットからの返信メールでこのリンクの貼り付けられた位置を教わったのだろう。鴻上が掲示板に「業務の代行をお願いします」などと書き込み、それに応じたオールドマーケットがこのサイトに誘導したのだ。リンクの位置もそのとき伝えられたはずだ。
山脇は出てきた画面を食い入るように見つめている。それはメッセージのやりとりだった。