温泉街のエスカレーター
7
「さあ、先生、こちらのクラスです。どうぞよろしくお願いします」
私はまっすぐこっちを見ている女子高生たちの前に立たされた。私は何かを言わなければならなかった。
「えーと、みなさん、もう問題は解き終わっていますか」
私は生徒たちが開いているテキストをざっと見渡した。みな解き終わっているようだった。私は観念した。
「さすがみなさん、優秀ですね。では、これから一つずつ確認して参りましょう。まず、問一ですが、これは読みの問題ですね。センター試験でもよく出る、きわめて一般的な漢字の読みであります」
私は、三問ある読みの問題で、できるだけ時間を稼ごうとした。ところが、この生徒たちはそうはさせてくれなかった。
生徒の一人がまっすぐに手をあげた。私は発言を許可した。
「先生、問一はみんなできていると思いますので、問二の説明をしてもらえますか。この問題は解説を読んでもよくわからなかったのです」
しまった、と思った。私にもよくわからなかったので、解説に書いてあることをなぞって、お茶を濁そうと思っていたのだった。
「……は、はい。それでは、問二に参りましょう。この問二でありますが、このタイプの問題は、実はかなり以前から、難関大学で出題されておりまして、私が、高校生のときなどは、それは、もう、実に、手強い問題でありました。何しろ……」
別の生徒が挙手し、私の解説を中断した。
「先生、この問題の文法的な知識についてはわかるんですけど、なぜ、④が答えで、③が間違いなのかが、わからないんです」
この生徒の質問は、痛いところを突いていた。
「それはねえ、君……」私は、④と③を見比べてみた。どちらも正解のような気がした。
「まあ、こういう問題のように、二つの選択肢が一見どちらも正解に思えるということも、たしかによくあります。しかし、一文字一文字丁寧に見て参りますと……」
私の額からは玉のような汗が次から次へと流れては、落ちた。私は、この授業が終わり、この温泉地から離れ、再び私が生活していたところに戻るのはいつになるだろうかということだけを考えながら、彼女たちの厳しい質問に答え続けるしかなかった。
私はまっすぐこっちを見ている女子高生たちの前に立たされた。私は何かを言わなければならなかった。
「えーと、みなさん、もう問題は解き終わっていますか」
私は生徒たちが開いているテキストをざっと見渡した。みな解き終わっているようだった。私は観念した。
「さすがみなさん、優秀ですね。では、これから一つずつ確認して参りましょう。まず、問一ですが、これは読みの問題ですね。センター試験でもよく出る、きわめて一般的な漢字の読みであります」
私は、三問ある読みの問題で、できるだけ時間を稼ごうとした。ところが、この生徒たちはそうはさせてくれなかった。
生徒の一人がまっすぐに手をあげた。私は発言を許可した。
「先生、問一はみんなできていると思いますので、問二の説明をしてもらえますか。この問題は解説を読んでもよくわからなかったのです」
しまった、と思った。私にもよくわからなかったので、解説に書いてあることをなぞって、お茶を濁そうと思っていたのだった。
「……は、はい。それでは、問二に参りましょう。この問二でありますが、このタイプの問題は、実はかなり以前から、難関大学で出題されておりまして、私が、高校生のときなどは、それは、もう、実に、手強い問題でありました。何しろ……」
別の生徒が挙手し、私の解説を中断した。
「先生、この問題の文法的な知識についてはわかるんですけど、なぜ、④が答えで、③が間違いなのかが、わからないんです」
この生徒の質問は、痛いところを突いていた。
「それはねえ、君……」私は、④と③を見比べてみた。どちらも正解のような気がした。
「まあ、こういう問題のように、二つの選択肢が一見どちらも正解に思えるということも、たしかによくあります。しかし、一文字一文字丁寧に見て参りますと……」
私の額からは玉のような汗が次から次へと流れては、落ちた。私は、この授業が終わり、この温泉地から離れ、再び私が生活していたところに戻るのはいつになるだろうかということだけを考えながら、彼女たちの厳しい質問に答え続けるしかなかった。
完
