シダ

妖精
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 それは困難だった。しかし、トキオは心を砕いて、手を尽くしてそのような関係を築く。
 しかし、月日が経つにつれ、トキオは自分が努力して築いたものに幻滅しか感じられなくなる。それから、こうも思う。愛情によって結ばれているはずの四人関係と、愛情を排除して形成した村人たちとの関係は、どこか似てはいないか。それから、文明も、文明から抜け出た遠い村も、遠い村から離脱したトキオの築いた四人関係も、どれも理想を追求した結果であるはずなのに、同じように冴えない光しか発していないと思うようになる。自然に咲いている、例えば野に咲くしろつめくさの緑の輝きにはかなわない。人間が作り出した美しさは、自然の緑のまばゆさにかすんでしまう。
 僕がそこまで考えたとき、トキオとコミネのストーリーに肉付けする楽しみは失われてしまった。遠い村は何年かかってもできなかった。それで、破り捨てたのだ。

 「コーク、あなたたまには家の仕事をしなさい」
 ブルーベリーの妖精は、不法侵入者のようにこの家に住み着いて、いつの間にか主人に命令するまでの権力を示していた。それは無理もない。僕の家の用事を僕に代わって何から何まで一人でやってくれるのだから。
 僕だって、自分がいきる分背負わなければならない用事をしなければいけないと思っている。それでも、手を抜こうと考える。それだけじゃない。僕はやりたいことですら一切やらないようにしたのだ。

 僕は空気を選り分けることが得意だった。酸素と窒素を分けるちょっとしたコツをすぐに体得した。水素や炭素や他の微量な諸元素でさえも分けられた。それで例えば水を作ったり、ダイヤモンドを作ったりした。
 この能力は周囲からも期待された。学校の教師も認めてくれた。しかし、僕はあっさりと手放した。涙は出たけど、コーヒーカップに二杯程度だった。これではハムスターも溺れまい。
 それほどではないにしても、僕は他にもいろいろなことを手放した。
 蛙のレースもその一つだ。
 蛙のレースといっても僕の場合は、うみがえるの方である。かわがえるより持久力があるのでこちらを選んだ。まあ、その分瞬発力に欠けるという難点もないではないが、それでもやはり、うみがえるの方にひかれるのである。
 コツは、何といっても蛙を大事に育てることだ。
 僕の蛙は強かった。当然である。湿り気や温度や腹加減や好みの餌など、よくわかっていたし、また過分でも不足でもないまさに適度な状態を保つことができたから自然に力を発揮させられたのである。蛙はその蛙の一番力を出しやすい状態にしてやれば、いやでも力が出るのである。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 シダ
◆ 執筆年 1998年