カサダ

4
庄屋は心の底からそう思っているようだった。私は庄屋のこの告白を聞きながら、一方ではその真心に胸を打たれながらも、一方では疑念を感じた。一体、庄屋は奥方のことをどう思っているのだろうか。奥方はとてもよくできた方で、優しく上品な方だ。磯良がどれほどの美人かわからないが、奥方はとても立派な方だ。私は奥方に畏敬の念を持っている。私は庄屋のこともとても尊敬しているので、もしも庄屋が奥方をうわべだけ大切にしているとしたら、何てこの世は頼りないことだと、私は自分のしでかしたことを棚に上げて、あきれかけていた。
私の表情で庄屋は私の疑念を察知したらしい。奥方に対する自分の感情を説明しだした。
「いやあ、俺は年甲斐もなく、おかしなことを口にしてしまったな。磯良はもういない。磯良をどうこうしようというのは、もはやまったく無理なことだ。もちろん俺は奥を何よりも大事に思っている。磯良と奥を比べることはできない。それはそういうもんだ。確かなことは、俺は何よりも奥が大事だということだ。ただ思うのは、磯良とのことがあったから、なおさら奥がいとしく思えるのかもしれないということだ。磯良が味わった悲しさを、奥には味わわせたくはない。それは確かに思っている。奥を大事にしてきた。人からもよく言われる。『旦那は本当に奥方思いだ』『奥方はうらやましいお方だ』『これほど仲のよい夫婦、互いを尊敬し合っている夫婦は珍しい』俺はそんなほめ言葉を聞きながらも、胸のどこかが痛むのを感じる。磯良は道楽息子だった男の胸の痛みだ。どんなに後悔しても、どんなに真人間になっても、一生消えることはない」
庄屋は運命を引き受けたかのような、きっぱりとした口調でそう言い放ち、一旦口を閉じた。そして、「話せば長くなるが」と断った上で、正座を崩し、どっかりと腰を据えて話し始めた。以下が庄屋が私に語った話の顛末である。
私の表情で庄屋は私の疑念を察知したらしい。奥方に対する自分の感情を説明しだした。
「いやあ、俺は年甲斐もなく、おかしなことを口にしてしまったな。磯良はもういない。磯良をどうこうしようというのは、もはやまったく無理なことだ。もちろん俺は奥を何よりも大事に思っている。磯良と奥を比べることはできない。それはそういうもんだ。確かなことは、俺は何よりも奥が大事だということだ。ただ思うのは、磯良とのことがあったから、なおさら奥がいとしく思えるのかもしれないということだ。磯良が味わった悲しさを、奥には味わわせたくはない。それは確かに思っている。奥を大事にしてきた。人からもよく言われる。『旦那は本当に奥方思いだ』『奥方はうらやましいお方だ』『これほど仲のよい夫婦、互いを尊敬し合っている夫婦は珍しい』俺はそんなほめ言葉を聞きながらも、胸のどこかが痛むのを感じる。磯良は道楽息子だった男の胸の痛みだ。どんなに後悔しても、どんなに真人間になっても、一生消えることはない」
庄屋は運命を引き受けたかのような、きっぱりとした口調でそう言い放ち、一旦口を閉じた。そして、「話せば長くなるが」と断った上で、正座を崩し、どっかりと腰を据えて話し始めた。以下が庄屋が私に語った話の顛末である。