カサダ

猫
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11

 正太郎は、遊女の住む村に着くと、すぐに女を探し出す。女も正太郎に会いたがっていた。二人は再会を喜び合い、そして駆け落ちしてしまう。
 正太郎は不思議だった。磯良のことはとても好きなのに、なぜか毎日が落ち着かなかったのだ。ところが、遊女は、特にどこが気に入っているというわけでもないのに、一緒にいると、妙に心が和むのだ。そんなふうに、二人は細々ではあるが、和気藹々と暮らしていた。
 一方、磯良は悲しみのため体を悪くしてしまった。正太郎の両親が必死になって看病するが、一向によくならない。何にものどを通らなくなり、見違えてしまう程にやせ細り、ついに息を引き取る。
 磯良の両親は葬儀の際、正太郎に対する恨み言を吐き散らした。正太郎の両親は、その怒りを甘んじて受けた。正太郎の両親ですら、息子に対して腹立たしさでいっぱいだった。そして、磯良の死を、実の娘の死のように悲しんだ。その思いは磯良の両親によく伝わり、不幸中の幸いだと言われた。磯良の両親は、この縁談に際して香央の家に伝わる占いを試みたことを話した。その結果が凶であったことは本当だった。今から思うと、占いに従っておくべきだったと、涙を落とした。正太郎の両親は重ねて謝罪の言葉をあらわし、やはり神官の家には畏れ多いことがあるものだと感心した。
 そして月日が過ぎていった。正太郎は、遊女との生活は気楽なもので、居心地よく暮らしていたが、次第に女の軽薄さがもの足りなく思えてきた。女は家事などろくにしなかった。怠け者で浮気っぽかった。正太郎に気づかれないように、何人もの男と遊んでいるようだった。正太郎は、毎日のように女とけんかをするようになった。そうなると、働き者で優しい磯良のことが恋しく思われてくる。ついに、正太郎は自分の家に帰ることを決意する。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 カサダ
◆ 執筆年 2001年7月8日