カサダ

猫
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 家人がおみつと小菊を運んでいった。
 このことが落ち着いて正太郎はおみつのことを両親に尋ねた。すると、次のようなことがわかった。
 おみつは最近雇われた女で、元は武家で今はすっかり落ちぶれてしまった家の娘だった。
 この家に来ると、磯良の残した小菊を気に入り、かわいがるようになった。小菊は磯良のいる離れから離れずにいたので、自然とおみつも離れにいる時間が多くなった。そのうちに、離れの女中部屋を自分の部屋にしてもいいかと言い出した。人が誰も住まないと家が荒れてしまうので、願ってもないことだと思って主人はその申し出を承認した。こうして、誰も寄りつかなくて、荒れ始めた離れに、おみつは小菊と住むようになった。
 もちろん、その時には誰も、おみつが磯良の霊に操られるようになるとは思っていなかった。あとになって思うと、磯良のかわいがった小菊をおみつが大事にするようになったため、小菊に移っていた磯良の心がおみつに入り込んだのではないか。そんなことを人々は言い合った。そして、おみつの体を仲立ちに磯良の霊が現れだし、遠くに住む正太郎を呼び戻したのだろうと。
 正太郎は今度こそ真人間に生まれ変わった。だから、何にしても磯良の霊が正太郎を呼び返してくれたのはよいことだった。正太郎の両親はそう言い合った。おみつがこの家に来たことが磯良の霊を蘇らせたのだとしたら、結果としておみつはこの家の恩人になる。そんな解釈をして、両親はおみつの望みをかなえたいと切り出した。
 おみつは、正太郎のことを好きになっていたので、少し厚かましいことだがと前置きして、正太郎と一緒になりたいということを口に出した。案外にも両親は歓迎した。それはそうである。いかに有力者の息子だとしても、正太郎の様々な経歴を知れば、まともな結婚相手はそうそうないだろう。だとすれば素性のよくわかっているおみつが嫁いでくれれば幸いとしなければならない。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 カサダ
◆ 執筆年 2001年7月8日