ロコモーション
16
「だって、お前のビートルだぞ。お前のドラムだぞ」
正幸は深い表情で辰吉を見つめた。
「タツキチの方が大切だ。あんなものいくらでも代わりを買える」
「マサユキ」
「さあ、みんな島に戻るぞ。波に流されたりなんかしたら、メンバーを首にするぞ!」
正幸は4人に笑顔を見せ、ワーッと、はしゃいでいるような声をだして、水をかきわけ島へ向かった。涙を流しながら。
島のへりで5人は激しい雨にうたれながら流されていく正幸のビートルを眺めた。
「ごめん、マサユキ。わたしのせいだよ。わたしがクーラーのスイッチを切り忘れて、バッテリーをあげちゃったからいけないんだ」
恵は泣きじゃくった。辰吉が恵をかばった。
「オレのせいだよ。オレがマサユキの言うこと聞いて、楽器積み終わった時点で戻っていればよかったんだ。マサユキ、オレのビートルやるよ。ドラムセットもオレ、働いて弁償する」
「悪いのはわたしだよ。マサユキ、わたし何でもする。結婚でも何でもする」
「バカヤロー。すぎたことをいつまでもぐちぐち言ってるんじゃねえ。先を考えろ、先を。この勢いじゃあ、きっとこの島は沈む。そしたら、タツキチのビートルもみんなの楽器も何もかも流されちまうだろう。そんなことよりもオレたちの命が危ないぞ。楽器や車はまた買えるけど、命は取り返せないぞ。メグミ! 結婚はたとえ生きて戻れたとしてもお前とはしないぞ。オレにはスリルにあふれた人生なんて向いてないからな」
恵は泣きやんで、真顔で正幸を見た。
「どういう意味?」
「お前と暮らしたら毎日ハラハラして、気の弱いオレの心は長持ちしそうにないからな」
恵はふくれた。メンバーに笑いが戻った。
正幸はてきぱきとメンバーに指示をだした。
「見ろ! 海面がどんどん上がってきている。ひと晩じゅう上がり続けるかもしれない。何もしなければオレたちは明日水死体となって浜に打ち上げられるだけだ。松林に即席の高床式住居をつくろう。タツキチとオレは鉄パイプを松の木の上に上げる。美智子と宏美と恵は舞台の板とビニールシートとロープを運んで木の上に上げてくれ」
メンバーはすみやかに行動に移った。5人とも息があっているので、作業が速かった。
正幸と辰吉がバランスのよい4本の松の木に鉄パイプを正方形になるように渡した。女の子たちが運んできた板を、向かい合わせの2本の鉄パイプに渡した。1方向に8枚。それから、それと垂直方向に8枚。それで床ができた。その上にビニールシートを全部乗せ、全員、食料を辰吉のビートルからだして、そこに運んだ。
正幸の身長くらいの高さにもう1度鉄パイプを組んだ。そして、ビニールシートで水が床にたれないようにし、さらにその上に板を8枚並べた。つなぎ目をロープでしっかりしばると、簡易住宅が完成した。できあがった時、水位は島の地表から足首位の高さまで上がっていた。
みんなずぶぬれだったが、働いたばかりで体がほてっていた。松の木のロッジで、横から吹きこむ強風に負けない声で辰吉が喚声を上げながら、缶ビールをメンバーの人数分取りだした。
いちおうは安心ということで、7人は缶ビールをたたき合った。令子と剛はジュースの缶を合わせた。ロボはビーフジャーキーをもらってかじりついた。正幸はすぐに次の行動を考えた。
「今は動いたばかりだから体が温かいけど、このままずぶぬれの服を着ているわけにはいかないぞ」
「わたし、着替え持ってきてないよ」恵が慌てた。
「どうすればいいの?」美智子が聞いた。
「オレも考えてるんだけど」正幸は困った。そして、言いにくそうに切りだした。「服を全部脱ごう」
「えー!」美智子、宏美、恵、辰吉が声をそろえて、動揺を表現した。
「そして、本当に言いにくいんだけど、抱き合って、お互いの体を温めるんだ」
4人はさらに動揺した。
正幸は深い表情で辰吉を見つめた。
「タツキチの方が大切だ。あんなものいくらでも代わりを買える」
「マサユキ」
「さあ、みんな島に戻るぞ。波に流されたりなんかしたら、メンバーを首にするぞ!」
正幸は4人に笑顔を見せ、ワーッと、はしゃいでいるような声をだして、水をかきわけ島へ向かった。涙を流しながら。
島のへりで5人は激しい雨にうたれながら流されていく正幸のビートルを眺めた。
「ごめん、マサユキ。わたしのせいだよ。わたしがクーラーのスイッチを切り忘れて、バッテリーをあげちゃったからいけないんだ」
恵は泣きじゃくった。辰吉が恵をかばった。
「オレのせいだよ。オレがマサユキの言うこと聞いて、楽器積み終わった時点で戻っていればよかったんだ。マサユキ、オレのビートルやるよ。ドラムセットもオレ、働いて弁償する」
「悪いのはわたしだよ。マサユキ、わたし何でもする。結婚でも何でもする」
「バカヤロー。すぎたことをいつまでもぐちぐち言ってるんじゃねえ。先を考えろ、先を。この勢いじゃあ、きっとこの島は沈む。そしたら、タツキチのビートルもみんなの楽器も何もかも流されちまうだろう。そんなことよりもオレたちの命が危ないぞ。楽器や車はまた買えるけど、命は取り返せないぞ。メグミ! 結婚はたとえ生きて戻れたとしてもお前とはしないぞ。オレにはスリルにあふれた人生なんて向いてないからな」
恵は泣きやんで、真顔で正幸を見た。
「どういう意味?」
「お前と暮らしたら毎日ハラハラして、気の弱いオレの心は長持ちしそうにないからな」
恵はふくれた。メンバーに笑いが戻った。
正幸はてきぱきとメンバーに指示をだした。
「見ろ! 海面がどんどん上がってきている。ひと晩じゅう上がり続けるかもしれない。何もしなければオレたちは明日水死体となって浜に打ち上げられるだけだ。松林に即席の高床式住居をつくろう。タツキチとオレは鉄パイプを松の木の上に上げる。美智子と宏美と恵は舞台の板とビニールシートとロープを運んで木の上に上げてくれ」
メンバーはすみやかに行動に移った。5人とも息があっているので、作業が速かった。
正幸と辰吉がバランスのよい4本の松の木に鉄パイプを正方形になるように渡した。女の子たちが運んできた板を、向かい合わせの2本の鉄パイプに渡した。1方向に8枚。それから、それと垂直方向に8枚。それで床ができた。その上にビニールシートを全部乗せ、全員、食料を辰吉のビートルからだして、そこに運んだ。
正幸の身長くらいの高さにもう1度鉄パイプを組んだ。そして、ビニールシートで水が床にたれないようにし、さらにその上に板を8枚並べた。つなぎ目をロープでしっかりしばると、簡易住宅が完成した。できあがった時、水位は島の地表から足首位の高さまで上がっていた。
みんなずぶぬれだったが、働いたばかりで体がほてっていた。松の木のロッジで、横から吹きこむ強風に負けない声で辰吉が喚声を上げながら、缶ビールをメンバーの人数分取りだした。
いちおうは安心ということで、7人は缶ビールをたたき合った。令子と剛はジュースの缶を合わせた。ロボはビーフジャーキーをもらってかじりついた。正幸はすぐに次の行動を考えた。
「今は動いたばかりだから体が温かいけど、このままずぶぬれの服を着ているわけにはいかないぞ」
「わたし、着替え持ってきてないよ」恵が慌てた。
「どうすればいいの?」美智子が聞いた。
「オレも考えてるんだけど」正幸は困った。そして、言いにくそうに切りだした。「服を全部脱ごう」
「えー!」美智子、宏美、恵、辰吉が声をそろえて、動揺を表現した。
「そして、本当に言いにくいんだけど、抱き合って、お互いの体を温めるんだ」
4人はさらに動揺した。