ロコモーション

17
「わたしやだ! マサユキとかタツキチと肌を重ねるなんて」恵が叫んだ。
「うるさい! 肌を重ねるなんて、妙な言い方するな。オレだってお前なんかとはごめんだよ」辰吉が言った。
恵は辰吉をにらんだ。「それに、レズっ気だってないもん!」
正幸はふたりのやりとりなどかまいなく冷静に話を続けた。
「もちろん、今のは最終手段だ。今直ちにみんなで肌を重ねる必要もないだろう」みんな、どっと笑った。「だけど、生きるか死ぬかとか、そういう深刻な状況になったら、そんなことまでしなくちゃならないと言うことを覚悟しておいてくれ」自信にあふれた声と表情で説得する正幸に、全員、素直にうなずいた。さっき彼の判断に従わなかったためにひどい状況を招いてしまったことと彼の愛車を失わせてしまったことで彼らは相当懲りていたのだった。「ビニールシートがかなりあるから、それにくるまるのがいいと思う。もちろん裸でだぞ。なぜなら、ビニールシートは水を吸わないから、蒸されて温かくなるはずだからだ。もし温かくならなくても、びしょぬれの服を無理して着てるのに比べればはるかにましだ。温かくならなかったときは、その時の状況で判断して、互いの身体で温めるなり工夫するしかないと思う」
彼が言い終わったとたん、強い風と雨と波が全員の体を打った。夏の夕方なのに馬鹿に寒いなと、誰もが思った。
薄暗さの中で剛がうずくまっているのに、令子が気づいた。
「どうしたの?」令子は声をかけたが、剛は返事をしなかった。彼女は剛の体を両手で揺さぶった。彼は、うん、とつぶやいただけだった。体がガタガタ震えているのが、令子にはっきりわかった。
令子の反対側の剛の隣に座っていた宏美が手のひらで彼の額をさわった。
「タケちゃん、すごい熱よ」
全員が剛に注目した。
美智子がそばへ寄って剛に話しかけた。
「ツヨシ君、気分はどんな感じ? 寒い?」
しばらくして剛が答えた。
「寒い」
美智子は意を決したまなざしで正幸を見た。
「マサユキ、わたし、ツヨシ君を温めるよ」
「それがいい」マサユキは即答した。そして、みんなの方を見た。「お前らも寒いだろ」誰もがうなずいた。「よし、じゃあ、オレがさっき言ったとおり、シートにくるまってから着ているものを全部脱ぐんだ。服は天井の鉄パイプにはさんで、乾かそう」
「でも、裸になってから干したら、見られちゃうじゃん」恵が言った。
「オレがみんなも分をまとめて干すよ」辰吉が言った。
「やだよ、タツキチにわたしの下着さわられるなんて」
恵はあきらかにわがままだった。そんなこと言っている状況ではないのだ。もし、下着を辰吉にさわられたくなければ、誰もふりむかないようにしてから、恵が全員の下着を干せばいいのだ。誰もがそう思った。
正幸が思いっきりどなろうとした瞬間に、美智子がきっぱりと言った。
「わたしがやるよ、メグミ。それならいいだろ」普段メグちゃんと呼んでいるのが、メグミと変わっただけでも、美智子の怒りが伝わってくるようだった。さすがに恵も自分を恥じ、下を向いた。
「ミッちゃん、暗くなってからいっしょに干そうよ」宏美が言った。
「ヒロちゃん、ありがたいけど、ツヨシ君のこと考えると早い方がいいよ。みんなが脱いでくれればわたしもすぐに脱げる。ヒロちゃんは、わたしが干している間、マサユキとタツキチを監視しててね」
「オレ、見たりしねえぞ」辰吉が言った。
宏美はシートを真剣に自分の体に巻きつけながら言った。「タツキチはうしろにも目をつけてるかもしれないから、しっかり見張っとくよ」
「うるせえ」
「うるさい! 肌を重ねるなんて、妙な言い方するな。オレだってお前なんかとはごめんだよ」辰吉が言った。
恵は辰吉をにらんだ。「それに、レズっ気だってないもん!」
正幸はふたりのやりとりなどかまいなく冷静に話を続けた。
「もちろん、今のは最終手段だ。今直ちにみんなで肌を重ねる必要もないだろう」みんな、どっと笑った。「だけど、生きるか死ぬかとか、そういう深刻な状況になったら、そんなことまでしなくちゃならないと言うことを覚悟しておいてくれ」自信にあふれた声と表情で説得する正幸に、全員、素直にうなずいた。さっき彼の判断に従わなかったためにひどい状況を招いてしまったことと彼の愛車を失わせてしまったことで彼らは相当懲りていたのだった。「ビニールシートがかなりあるから、それにくるまるのがいいと思う。もちろん裸でだぞ。なぜなら、ビニールシートは水を吸わないから、蒸されて温かくなるはずだからだ。もし温かくならなくても、びしょぬれの服を無理して着てるのに比べればはるかにましだ。温かくならなかったときは、その時の状況で判断して、互いの身体で温めるなり工夫するしかないと思う」
彼が言い終わったとたん、強い風と雨と波が全員の体を打った。夏の夕方なのに馬鹿に寒いなと、誰もが思った。
薄暗さの中で剛がうずくまっているのに、令子が気づいた。
「どうしたの?」令子は声をかけたが、剛は返事をしなかった。彼女は剛の体を両手で揺さぶった。彼は、うん、とつぶやいただけだった。体がガタガタ震えているのが、令子にはっきりわかった。
令子の反対側の剛の隣に座っていた宏美が手のひらで彼の額をさわった。
「タケちゃん、すごい熱よ」
全員が剛に注目した。
美智子がそばへ寄って剛に話しかけた。
「ツヨシ君、気分はどんな感じ? 寒い?」
しばらくして剛が答えた。
「寒い」
美智子は意を決したまなざしで正幸を見た。
「マサユキ、わたし、ツヨシ君を温めるよ」
「それがいい」マサユキは即答した。そして、みんなの方を見た。「お前らも寒いだろ」誰もがうなずいた。「よし、じゃあ、オレがさっき言ったとおり、シートにくるまってから着ているものを全部脱ぐんだ。服は天井の鉄パイプにはさんで、乾かそう」
「でも、裸になってから干したら、見られちゃうじゃん」恵が言った。
「オレがみんなも分をまとめて干すよ」辰吉が言った。
「やだよ、タツキチにわたしの下着さわられるなんて」
恵はあきらかにわがままだった。そんなこと言っている状況ではないのだ。もし、下着を辰吉にさわられたくなければ、誰もふりむかないようにしてから、恵が全員の下着を干せばいいのだ。誰もがそう思った。
正幸が思いっきりどなろうとした瞬間に、美智子がきっぱりと言った。
「わたしがやるよ、メグミ。それならいいだろ」普段メグちゃんと呼んでいるのが、メグミと変わっただけでも、美智子の怒りが伝わってくるようだった。さすがに恵も自分を恥じ、下を向いた。
「ミッちゃん、暗くなってからいっしょに干そうよ」宏美が言った。
「ヒロちゃん、ありがたいけど、ツヨシ君のこと考えると早い方がいいよ。みんなが脱いでくれればわたしもすぐに脱げる。ヒロちゃんは、わたしが干している間、マサユキとタツキチを監視しててね」
「オレ、見たりしねえぞ」辰吉が言った。
宏美はシートを真剣に自分の体に巻きつけながら言った。「タツキチはうしろにも目をつけてるかもしれないから、しっかり見張っとくよ」
「うるせえ」