ロコモーション

22
令子と剛は少し離れた場所で、打ち上げられたものを見て歩いていた。小さな魚や色とりどりの海草や宝石のような貝殻が、あっちにもこっちにもあった。
剛は元気をすっかり取り戻していて、うれしそうに、「レイちゃん、レイちゃん」と、令子に話しかけた。令子は、彼が起きた時、目を合わせられないで、顔を赤くしてしまったが、彼は何のこだわりもなく彼女に話しかけた。剛は令子に強くひきつけられ、ずっと彼女のそばにくっついていたい気分だったのだ。令子は、剛が美智子のことを忘れてしまったかのように、自分にまとわりつくのが、うれしくもあり、誇らしくもあった。姉さんではなくわたしに、ツヨシ君はやってきたんだ。
7人と1匹はレンガの道を歩いた。
辰吉と恵と宏美はひきずるようにして歩いた。このあと起こること、このあとやらなければならないことを考えて、頭の中が真っ黒になっていたのだった。正幸と美智子はしっかり歩いた。やらなければならないことはやらなければならない。正幸はそう思っていた。そして、これからしていかなければならない徒労とも言えるような事後処理は、彼にとってそれほどつらく感じられることではなかった。彼が心配したのは、ツイン・ビートルははたして活動を再開できるのか、ということだった。自分や美智子のように強い人間は、こんなことにはほとんどめげないが、ふたりがその気にさせて入れたようなほかのメンバーには、バンドを続ける気力が残っているだろうか? 楽器もなくし、親の圧力も高くなっていくに違いない状況で、どうやってメンバーの気持ちをまとめればいいのだろうか? 彼はそういった精神的なストレスにこれから耐えていかなければならないと覚悟した。そして、それはきっと乗り越えられるだろうと思った。彼はうたれ強かった。
しかし、辰吉や恵や宏美は挫折に弱かった。2台のビートルと1台の軽トラの無惨な姿を見てしまったら、急に現実の容赦ない試練を実感し、体じゅうの力が抜けてしまったのだ。
「タツキチ、なんだよ、急にしょげちゃってさ」正幸は威勢をつけようと思って言った。
「あんなの見せられたら、立ち直れないよ」
辰吉は情けない声をだした。正幸は彼の声がかなり深刻だったので黙って歩き続けた。
令子が辰吉の横に並んだ。
「タツキチさん」
「うん?」
辰吉は令子はきっと慰めの言葉をくれるだろうと思った。しかし、今はそういうことを聞くのも面倒なくらいだったので、少しうるさそうに返事をした。彼は今誰とも話したくなかったのだ。ところが令子は、彼にとってとても意外なことを言いだした。辰吉に耳を貸してと言ってから、
「メグちゃんのこと好きなの?」
辰吉は赤面した。
まさか、令子が聞いていたとは思わなかった。彼は恵と抱き合ったとき、みんな寝てしまったのを確かめたつもりだったのだ。やっぱり途中で目を覚ますことはあるよなあ。ないと考えた方が間違えだったのだ。辰吉は覚悟を決めた。
「ああ、好きだ」
「タツキチさん」
「うん?」
「メグちゃんをちゃんと守らなくちゃだめだよ。あんなにきれいな女の人が、2度とタツキチさんを好きになるとは限らないんだから」
「はい、はい。ご忠告ありがたくうかがっておきましょう」
剛は元気をすっかり取り戻していて、うれしそうに、「レイちゃん、レイちゃん」と、令子に話しかけた。令子は、彼が起きた時、目を合わせられないで、顔を赤くしてしまったが、彼は何のこだわりもなく彼女に話しかけた。剛は令子に強くひきつけられ、ずっと彼女のそばにくっついていたい気分だったのだ。令子は、剛が美智子のことを忘れてしまったかのように、自分にまとわりつくのが、うれしくもあり、誇らしくもあった。姉さんではなくわたしに、ツヨシ君はやってきたんだ。
7人と1匹はレンガの道を歩いた。
辰吉と恵と宏美はひきずるようにして歩いた。このあと起こること、このあとやらなければならないことを考えて、頭の中が真っ黒になっていたのだった。正幸と美智子はしっかり歩いた。やらなければならないことはやらなければならない。正幸はそう思っていた。そして、これからしていかなければならない徒労とも言えるような事後処理は、彼にとってそれほどつらく感じられることではなかった。彼が心配したのは、ツイン・ビートルははたして活動を再開できるのか、ということだった。自分や美智子のように強い人間は、こんなことにはほとんどめげないが、ふたりがその気にさせて入れたようなほかのメンバーには、バンドを続ける気力が残っているだろうか? 楽器もなくし、親の圧力も高くなっていくに違いない状況で、どうやってメンバーの気持ちをまとめればいいのだろうか? 彼はそういった精神的なストレスにこれから耐えていかなければならないと覚悟した。そして、それはきっと乗り越えられるだろうと思った。彼はうたれ強かった。
しかし、辰吉や恵や宏美は挫折に弱かった。2台のビートルと1台の軽トラの無惨な姿を見てしまったら、急に現実の容赦ない試練を実感し、体じゅうの力が抜けてしまったのだ。
「タツキチ、なんだよ、急にしょげちゃってさ」正幸は威勢をつけようと思って言った。
「あんなの見せられたら、立ち直れないよ」
辰吉は情けない声をだした。正幸は彼の声がかなり深刻だったので黙って歩き続けた。
令子が辰吉の横に並んだ。
「タツキチさん」
「うん?」
辰吉は令子はきっと慰めの言葉をくれるだろうと思った。しかし、今はそういうことを聞くのも面倒なくらいだったので、少しうるさそうに返事をした。彼は今誰とも話したくなかったのだ。ところが令子は、彼にとってとても意外なことを言いだした。辰吉に耳を貸してと言ってから、
「メグちゃんのこと好きなの?」
辰吉は赤面した。
まさか、令子が聞いていたとは思わなかった。彼は恵と抱き合ったとき、みんな寝てしまったのを確かめたつもりだったのだ。やっぱり途中で目を覚ますことはあるよなあ。ないと考えた方が間違えだったのだ。辰吉は覚悟を決めた。
「ああ、好きだ」
「タツキチさん」
「うん?」
「メグちゃんをちゃんと守らなくちゃだめだよ。あんなにきれいな女の人が、2度とタツキチさんを好きになるとは限らないんだから」
「はい、はい。ご忠告ありがたくうかがっておきましょう」