ギンザ

2
それから数日たった。彼は今、『麗しのサブリナ』のチケットを2枚持って、あの女の子のいる店に向かおうとしている。
銀座通りを歩き、三越を過ぎると、お茶屋の緑色ののぼりが見えてきた。すると、秀幸は急に気持ちが弱くなってしまった。個人的な関係が何もないのに、デートに誘えるわけない、ということに今さら気がついたのだ。
しかし、お茶屋はもう目の前にある。今日は女の子は店頭でお茶を配っていない。大きなサッシの向こうに店内のようすがありありと見える。女の子は女性の客と話をしている。秀幸はどうしても店の中に入ることができなかった。茶色のバッグを持つ手を汗でぬらしながら、店を通り過ぎて、まっすぐ歩いていく。冬なのに、額から汗を流し、体がほてるのを感じた。
彼はなぜか引き返せなかった。しばらく銀座通りを歩いて、マロニエ通りに曲がり、そこから並木通りまでいき、並木通りを左に曲がった。そして、晴海通りに曲がり、しばらく歩くと、服部時計店と三越が見えてきた。結局彼は、元どおり銀座通りに戻ってきた。
秀幸はまたお茶屋に向かって歩いている。彼は、ぐるっと1周する間に、また勇気を取り戻していた。店員にひと目ぼれした客が気持ちをうち明ける、ということが、とても劇的なことに思えてきたのだ。
三越から松屋に向かって歩くと、すぐにまたお茶屋ののれんが見えてきた。そうすると、秀幸の気持ちはまたしぼんでしまう。
店のガラス越しにはつらつとした表情の女の子を見る。彼はまた中へ入ることができなかった。
彼はわき目もふらずに歩いていく。さっきと同じようにマロニエ通りに曲がり、それから並木通りを歩く。有名な装飾品の店が並んでいて、こんな店で彼女に何か買ってあげることができたら素敵だろうなあと思う。
さっきと同じように1周して、またお茶屋が見えてくる。秀幸はやっぱり店の中に入れない。女の子は笑顔で、年配の女性の店員と話している。秀幸はちらっとそれを見ただけで、歩調を変えずにすたすた歩いていく。
秀幸は、自分はいったい何をやっているんだろうと思う。寒いのに汗を流して歩いている。歩きすぎて暑くなったのか、冷や汗をかいているのか、自分でもよくわからない。
彼はだんだんバカらしいことを考えるようになる。こんなふうに、何かの事情で、同じ所をぐるぐる回った経験のある人はいるのだろうか? そんなことを考えだすと、よけいに自分が滑稽で情けない人間に感じられてくる。
そんなふうに、またしばらく回ったあとで、彼はどうにでもなれという気分になってくる。
銀座通りを歩き、三越を過ぎると、お茶屋の緑色ののぼりが見えてきた。すると、秀幸は急に気持ちが弱くなってしまった。個人的な関係が何もないのに、デートに誘えるわけない、ということに今さら気がついたのだ。
しかし、お茶屋はもう目の前にある。今日は女の子は店頭でお茶を配っていない。大きなサッシの向こうに店内のようすがありありと見える。女の子は女性の客と話をしている。秀幸はどうしても店の中に入ることができなかった。茶色のバッグを持つ手を汗でぬらしながら、店を通り過ぎて、まっすぐ歩いていく。冬なのに、額から汗を流し、体がほてるのを感じた。
彼はなぜか引き返せなかった。しばらく銀座通りを歩いて、マロニエ通りに曲がり、そこから並木通りまでいき、並木通りを左に曲がった。そして、晴海通りに曲がり、しばらく歩くと、服部時計店と三越が見えてきた。結局彼は、元どおり銀座通りに戻ってきた。
秀幸はまたお茶屋に向かって歩いている。彼は、ぐるっと1周する間に、また勇気を取り戻していた。店員にひと目ぼれした客が気持ちをうち明ける、ということが、とても劇的なことに思えてきたのだ。
三越から松屋に向かって歩くと、すぐにまたお茶屋ののれんが見えてきた。そうすると、秀幸の気持ちはまたしぼんでしまう。
店のガラス越しにはつらつとした表情の女の子を見る。彼はまた中へ入ることができなかった。
彼はわき目もふらずに歩いていく。さっきと同じようにマロニエ通りに曲がり、それから並木通りを歩く。有名な装飾品の店が並んでいて、こんな店で彼女に何か買ってあげることができたら素敵だろうなあと思う。
さっきと同じように1周して、またお茶屋が見えてくる。秀幸はやっぱり店の中に入れない。女の子は笑顔で、年配の女性の店員と話している。秀幸はちらっとそれを見ただけで、歩調を変えずにすたすた歩いていく。
秀幸は、自分はいったい何をやっているんだろうと思う。寒いのに汗を流して歩いている。歩きすぎて暑くなったのか、冷や汗をかいているのか、自分でもよくわからない。
彼はだんだんバカらしいことを考えるようになる。こんなふうに、何かの事情で、同じ所をぐるぐる回った経験のある人はいるのだろうか? そんなことを考えだすと、よけいに自分が滑稽で情けない人間に感じられてくる。
そんなふうに、またしばらく回ったあとで、彼はどうにでもなれという気分になってくる。