ギンザ

6
「じゃあ、今夜、日比谷公園の噴水前で」そう言って良平はでていく。
「ええ」愛子は良平に手をふる。
お茶屋の営業時間が終わると、愛子はうきうきとした気持ちで日比谷公園まで歩いた。
噴水前のベンチに良平が座っていた。彼は青系のスーツを着ていた。彼女はとっておきのドレスにコートをはおっていた。
「ごめんなさい。待った?」
「オレも今きたところさ。そのドレス素敵だね」
ベンチにかけた愛子は、さっそくお気に入りのドレスをほめられてうれしくなった。良平のことばはいつも自分をうれしい気分にさせてくれるので、彼女はとても好きだった。
彼は愛子をしゃれたレストランにつれていった。
「芸能人もよくくる店なんだよ」
彼女はうっとりして運ばれてくる料理を口にした。彼女は、豪華な食事をしたことがほとんどなかったので、料理が運ばれてくるたびに、良平に質問した。彼は、そのたびに見事に話をした。雑誌で得た知識をそのまま話しているだけなのだが、何も知らない愛子は、彼にますます尊敬の思いを深めていく。
そのあと、ダンスホールでも良平は貴公子のように振る舞った。実際、愛子は彼を王子様のように思った。
良平は愛子の腰を抱いて踊っていたが、急に彼女の手を引き、耳もとにささやいた。
「オレのうちにおいでよ」
神経の高ぶっていた愛子は、無言でうなずいた。
着いたのは良平のアパートではなくて、安っぽいホテルだったが、愛子にはもうそんなことはどうでもよくなっていた。ワインの酔いも手伝って、自分からも刺激を求める気分になっていた。だから、良平が彼女を抱こうとしてもほとんど抵抗しなかった。むしろ自分からも受け入れていった。
良平は、自分のことを全面的に信用し、全面的に従おうとする愛子のことがもの足りなく思えた。彼女を抱いてしまうと、そのことがますます強く感じられた。こういう、反抗することを知らない女の子は、かえって退屈なものだ。彼はそんな身勝手な理屈を考え、愛子から離れる算段をはじめた。彼のいつものことだった。ちょっといいと思うと女の子に接近し、目的を遂げるといいわけを探して去っていこうとする。彼は要するに、生涯、人間的成長を期待できないタイプの人間なのだ。
愛子は、帰らなくちゃ、と言って、次に会う約束をした。
「ねえ、ヘップバーンの『麗しのサブリナ』が見たいの。いっしょにいこう」
「ああ」良平は気のない返事をした。
「ええ」愛子は良平に手をふる。
お茶屋の営業時間が終わると、愛子はうきうきとした気持ちで日比谷公園まで歩いた。
噴水前のベンチに良平が座っていた。彼は青系のスーツを着ていた。彼女はとっておきのドレスにコートをはおっていた。
「ごめんなさい。待った?」
「オレも今きたところさ。そのドレス素敵だね」
ベンチにかけた愛子は、さっそくお気に入りのドレスをほめられてうれしくなった。良平のことばはいつも自分をうれしい気分にさせてくれるので、彼女はとても好きだった。
彼は愛子をしゃれたレストランにつれていった。
「芸能人もよくくる店なんだよ」
彼女はうっとりして運ばれてくる料理を口にした。彼女は、豪華な食事をしたことがほとんどなかったので、料理が運ばれてくるたびに、良平に質問した。彼は、そのたびに見事に話をした。雑誌で得た知識をそのまま話しているだけなのだが、何も知らない愛子は、彼にますます尊敬の思いを深めていく。
そのあと、ダンスホールでも良平は貴公子のように振る舞った。実際、愛子は彼を王子様のように思った。
良平は愛子の腰を抱いて踊っていたが、急に彼女の手を引き、耳もとにささやいた。
「オレのうちにおいでよ」
神経の高ぶっていた愛子は、無言でうなずいた。
着いたのは良平のアパートではなくて、安っぽいホテルだったが、愛子にはもうそんなことはどうでもよくなっていた。ワインの酔いも手伝って、自分からも刺激を求める気分になっていた。だから、良平が彼女を抱こうとしてもほとんど抵抗しなかった。むしろ自分からも受け入れていった。
良平は、自分のことを全面的に信用し、全面的に従おうとする愛子のことがもの足りなく思えた。彼女を抱いてしまうと、そのことがますます強く感じられた。こういう、反抗することを知らない女の子は、かえって退屈なものだ。彼はそんな身勝手な理屈を考え、愛子から離れる算段をはじめた。彼のいつものことだった。ちょっといいと思うと女の子に接近し、目的を遂げるといいわけを探して去っていこうとする。彼は要するに、生涯、人間的成長を期待できないタイプの人間なのだ。
愛子は、帰らなくちゃ、と言って、次に会う約束をした。
「ねえ、ヘップバーンの『麗しのサブリナ』が見たいの。いっしょにいこう」
「ああ」良平は気のない返事をした。