ギンザ

13
愛子は、秀幸がいろいろほめてくれるのはうれしいが、夢の実現の根拠についてはあまり説得力がないので、またおかしくなって、笑いたくなった。
「ありがとう。励ましてくださって。わたし、とてもうれしいわ」彼女は冷えたお茶をひと口飲んだ。「ねえ、ヒデユキさんは、本当は何になりたかったの?」
「キミの夢に比べたらつまらないものさ。どこかの省庁に入りたかったのさ。ようするに、エリート官僚になりたかった。あまりかっこよくないかもしれないけど、ボクみたいに勉強ばかりやってきた人間は、そういう発想しかできないんだよ」
「あら、そんな、つまらないどころか、尊敬しちゃうわ。まさかそんなすごい人だったなんて、びっくりだわ」
「いや、それもだめで、いなかのあまり大きくない会社に就職することになったのさ」秀幸は、愛子に感心されて、なんだかいごこちが悪くなった。「お茶、冷えちゃっただろ。もう1杯いれるよ。今度は、ボクが上手にいれてみるよ」
秀幸が立ち上がると、愛子も立ち上がった。
「わたし、そろそろいってみるわ。もうこんなに遅いし」柱にかかっている小さな時計が10時を過ぎているのを彼女は見た。「わたしの気になっていたことも話してもらえたから」そして、彼女はにっこり笑っておじぎをした。「今日は、いろいろおごってもらってありがとうございました」
「どういたしまして」秀幸はでていこうとする愛子に声をかけた。
「また会えるかな?」
愛子は真面目な表情で首を傾けた。
「さあ、わからないけど、ヒデユキさんは明日故郷に帰るんでしょ?」
「そうなんだけど」秀幸はしばらく黙ったまま愛子を見つめた。愛子も秀幸が口を開くまで黙って彼を見つめていた。「11時45分上野発の列車なんだけど、もしよかったら見送りにきてくれないかな?」そう言ったあとで、彼は、出会って間もない相手に頼めることではないということに気づいて、照れた。「ごめん、ちょっとあつかましすぎるね」
愛子は、どう返事しようか迷った。
「考えておくわ。上野にいけばいいのね」
「11時30分までに有楽町をでようと思ってるから、わざわざ上野までいかなくてもいいんだけどね」
「わかった。もしいけたら、有楽町駅にいくわ。山の手方面のホームでいいのね?」
「うん、本当にもし覚えていたらでいいんだけどね」
「なるべく覚えておくようにしたいけど、いけなかったらごめんなさい。それじゃあ、さようなら」
秀幸はふたたび愛子を呼びとめた。
「名前、まだ聞いてなかった」
愛子はふたたび秀幸に振り返った。
「アイコ」そして、笑顔を見せた。
秀幸もにっこり笑った。
「アイコさん、さようなら」
「さようなら」
秀幸はもう彼女を呼びとめなかった。
「ありがとう。励ましてくださって。わたし、とてもうれしいわ」彼女は冷えたお茶をひと口飲んだ。「ねえ、ヒデユキさんは、本当は何になりたかったの?」
「キミの夢に比べたらつまらないものさ。どこかの省庁に入りたかったのさ。ようするに、エリート官僚になりたかった。あまりかっこよくないかもしれないけど、ボクみたいに勉強ばかりやってきた人間は、そういう発想しかできないんだよ」
「あら、そんな、つまらないどころか、尊敬しちゃうわ。まさかそんなすごい人だったなんて、びっくりだわ」
「いや、それもだめで、いなかのあまり大きくない会社に就職することになったのさ」秀幸は、愛子に感心されて、なんだかいごこちが悪くなった。「お茶、冷えちゃっただろ。もう1杯いれるよ。今度は、ボクが上手にいれてみるよ」
秀幸が立ち上がると、愛子も立ち上がった。
「わたし、そろそろいってみるわ。もうこんなに遅いし」柱にかかっている小さな時計が10時を過ぎているのを彼女は見た。「わたしの気になっていたことも話してもらえたから」そして、彼女はにっこり笑っておじぎをした。「今日は、いろいろおごってもらってありがとうございました」
「どういたしまして」秀幸はでていこうとする愛子に声をかけた。
「また会えるかな?」
愛子は真面目な表情で首を傾けた。
「さあ、わからないけど、ヒデユキさんは明日故郷に帰るんでしょ?」
「そうなんだけど」秀幸はしばらく黙ったまま愛子を見つめた。愛子も秀幸が口を開くまで黙って彼を見つめていた。「11時45分上野発の列車なんだけど、もしよかったら見送りにきてくれないかな?」そう言ったあとで、彼は、出会って間もない相手に頼めることではないということに気づいて、照れた。「ごめん、ちょっとあつかましすぎるね」
愛子は、どう返事しようか迷った。
「考えておくわ。上野にいけばいいのね」
「11時30分までに有楽町をでようと思ってるから、わざわざ上野までいかなくてもいいんだけどね」
「わかった。もしいけたら、有楽町駅にいくわ。山の手方面のホームでいいのね?」
「うん、本当にもし覚えていたらでいいんだけどね」
「なるべく覚えておくようにしたいけど、いけなかったらごめんなさい。それじゃあ、さようなら」
秀幸はふたたび愛子を呼びとめた。
「名前、まだ聞いてなかった」
愛子はふたたび秀幸に振り返った。
「アイコ」そして、笑顔を見せた。
秀幸もにっこり笑った。
「アイコさん、さようなら」
「さようなら」
秀幸はもう彼女を呼びとめなかった。