ギンザ
18
いくつかのグループにわかれて、歌唱力のテストがおこなわれた。愛子は同じグループの候補者といっしょにほかの部屋に移動した。
そこには、ふたりの審査員が待っていた。
「みなさん、緊張しないでね。これから、ひとりひとりのかたに、課題曲を歌ってもらいます。全員終わったら、我々が協議して、この場で結果をお伝えします。合格されたかたは、午後の面接試験を受けてください」
初老の男性の審査員がとてもやわらかい口調でそう言った。若いもうひとりの男性の審査員の合図で最初の受験者が準備をした。奥からピアノの音が聞こえてきた。歌がはじまった。とても声量があって、上手な歌い方だった。愛子はますます緊張してきた。
次々に歌い終わっていき、ついに愛子の順番が回ってきた。
愛子はいつもラジオから流れる歌に合わせて練習していたから、ピアノの伴奏に合わせるのは難しかった。彼女はうまく歌いはじめられなくて、つかえてしまった。ピアノもとまった。
「何度やり直してもかまわないからね。それじゃあ、もういちど」
初老の審査員がいたわるように言った。愛子は、よけいに情けなく思った。わたしだけだ。わたしだけがつかえてしまった。彼女は自分を責めた。
愛子はおそるおそるといった感じで歌い直した。テンポが遅くなったり、速くなったりした。ピアノがそれにうまく合わせてくれた。彼女は、少しずつ調子をだしていったが、それでもほかの候補者よりも、歌い方が弱いことがはっきりわかった。自己流で、正しい訓練なんかしようと思っていなかったのだが、今になって、彼女はそういった基礎力の差というものを思い知らされた。
全員歌い終わり、審査員は別室に移動した。しばらくして審査員が戻ってきて、結果を発表した。このグループからは3人が残った。珍しく多い。ここはレベルが高い。審査員はそう言って彼女たちをほめた。しかし、愛子は合格しなかった。
「また挑戦してください」
初老の審査員は愛子たち不合格者をそう慰めた。
よくみがかれた階段をおりると、受付が見えてきた。うつむいていた愛子は、まっすぐ顔を上げ、明るさをとりつくろった。受付に近づくと、例の係員が気づいて愛子に声をかけた。
「どうでしたか?」
愛子は舌をちらっとだした。
「だめでした」
係の女性は残念そうな表情をした。
そこには、ふたりの審査員が待っていた。
「みなさん、緊張しないでね。これから、ひとりひとりのかたに、課題曲を歌ってもらいます。全員終わったら、我々が協議して、この場で結果をお伝えします。合格されたかたは、午後の面接試験を受けてください」
初老の男性の審査員がとてもやわらかい口調でそう言った。若いもうひとりの男性の審査員の合図で最初の受験者が準備をした。奥からピアノの音が聞こえてきた。歌がはじまった。とても声量があって、上手な歌い方だった。愛子はますます緊張してきた。
次々に歌い終わっていき、ついに愛子の順番が回ってきた。
愛子はいつもラジオから流れる歌に合わせて練習していたから、ピアノの伴奏に合わせるのは難しかった。彼女はうまく歌いはじめられなくて、つかえてしまった。ピアノもとまった。
「何度やり直してもかまわないからね。それじゃあ、もういちど」
初老の審査員がいたわるように言った。愛子は、よけいに情けなく思った。わたしだけだ。わたしだけがつかえてしまった。彼女は自分を責めた。
愛子はおそるおそるといった感じで歌い直した。テンポが遅くなったり、速くなったりした。ピアノがそれにうまく合わせてくれた。彼女は、少しずつ調子をだしていったが、それでもほかの候補者よりも、歌い方が弱いことがはっきりわかった。自己流で、正しい訓練なんかしようと思っていなかったのだが、今になって、彼女はそういった基礎力の差というものを思い知らされた。
全員歌い終わり、審査員は別室に移動した。しばらくして審査員が戻ってきて、結果を発表した。このグループからは3人が残った。珍しく多い。ここはレベルが高い。審査員はそう言って彼女たちをほめた。しかし、愛子は合格しなかった。
「また挑戦してください」
初老の審査員は愛子たち不合格者をそう慰めた。
よくみがかれた階段をおりると、受付が見えてきた。うつむいていた愛子は、まっすぐ顔を上げ、明るさをとりつくろった。受付に近づくと、例の係員が気づいて愛子に声をかけた。
「どうでしたか?」
愛子は舌をちらっとだした。
「だめでした」
係の女性は残念そうな表情をした。