ギンザ

19
「今回はずいぶんと応募が多かったから、仕方ありませんよ。あなたならきっといつか選ばれるでしょうから、また挑戦してみてください」
「わたし、これであきらめがつきました。親に反抗して飛びでてきて、歌手になるつもりでいたけど、今まで何もしてこなかったんです。はっきり結果をだすのが恐かったから、オーディションも受けなかったんです。結果はなんとなく見えてたのに、それを認めないようにしようとしてたんです。でも、これでさっぱりしました。いつまでもこんな中途半端なことしてられないから、故郷に戻ってきちんとした仕事を探そうと思います」
係の女性は穏やかな表情で応対した。
「そうなんですか。ずいぶん固い決心のようですね」
「はい」
「とても感心いたしましたわ。わたくしも応援してますからがんばってくださいね」
「はい。おねえさん、今までいろいろお世話になりました。それでは、さようなら」
愛子は礼儀正しくおじぎした。
「さようなら。またいつでもご訪問くださいね」
係員も深々とおじぎした。
数日後、愛子はお茶屋と別れた。伸子は、愛子が親もとに戻ることになって、もちろん安心したが、それでいてとても寂しい気がした。
「アイちゃん、ちょくちょく遊びにきておくれよ」
愛子はよそゆきの服を着て、手に大きな荷物をふたつ持っていた。
「おばちゃん、もちろんよ。嫌なことがあったら手紙かくから相談にのってくださいね」
「ああ、どしどし手紙をちょうだい」
伸子は指で涙をぬぐいながら言った。
トメは黙って愛子を見つめた。愛子はトメの目を見た。
「トメちゃんにもお手紙だすから、返事くださいね」
トメはとっさに何の反応も示さなかったが、しばらくすると愛子が予想もしていないようなことになった。トメが大声で泣きだしたのだ。
「わあん、アイちゃん、トメのこと忘れないでおくれよ。アイちゃんのことを自分の娘のように思っていたのに、帰ってしまうなんて、わたしゃ悲しいよ。こんなにつらいことはないよ」
子どものように泣きじゃくるトメを見ていて、さすがに愛子の目がしらも熱くなり、涙がにじんできた。そうするととめどもなく涙があふれだし、愛子はトメと抱き合いながら泣き合った。
「わたし、これであきらめがつきました。親に反抗して飛びでてきて、歌手になるつもりでいたけど、今まで何もしてこなかったんです。はっきり結果をだすのが恐かったから、オーディションも受けなかったんです。結果はなんとなく見えてたのに、それを認めないようにしようとしてたんです。でも、これでさっぱりしました。いつまでもこんな中途半端なことしてられないから、故郷に戻ってきちんとした仕事を探そうと思います」
係の女性は穏やかな表情で応対した。
「そうなんですか。ずいぶん固い決心のようですね」
「はい」
「とても感心いたしましたわ。わたくしも応援してますからがんばってくださいね」
「はい。おねえさん、今までいろいろお世話になりました。それでは、さようなら」
愛子は礼儀正しくおじぎした。
「さようなら。またいつでもご訪問くださいね」
係員も深々とおじぎした。
数日後、愛子はお茶屋と別れた。伸子は、愛子が親もとに戻ることになって、もちろん安心したが、それでいてとても寂しい気がした。
「アイちゃん、ちょくちょく遊びにきておくれよ」
愛子はよそゆきの服を着て、手に大きな荷物をふたつ持っていた。
「おばちゃん、もちろんよ。嫌なことがあったら手紙かくから相談にのってくださいね」
「ああ、どしどし手紙をちょうだい」
伸子は指で涙をぬぐいながら言った。
トメは黙って愛子を見つめた。愛子はトメの目を見た。
「トメちゃんにもお手紙だすから、返事くださいね」
トメはとっさに何の反応も示さなかったが、しばらくすると愛子が予想もしていないようなことになった。トメが大声で泣きだしたのだ。
「わあん、アイちゃん、トメのこと忘れないでおくれよ。アイちゃんのことを自分の娘のように思っていたのに、帰ってしまうなんて、わたしゃ悲しいよ。こんなにつらいことはないよ」
子どものように泣きじゃくるトメを見ていて、さすがに愛子の目がしらも熱くなり、涙がにじんできた。そうするととめどもなく涙があふれだし、愛子はトメと抱き合いながら泣き合った。