ナナの夏
5
仲間内では目立つ貴美恵もこの海岸通りでは普通、いやそれ以下にも見えた。貴美恵が先頭に立ち仲間を引っ張っていった。
「ワー、これかわいいね!」と、店の前にぶらさがっているビニール製の魚類を手にとって、貴美恵は高い声を出す。他の者たちは自然とその店の前に立ち止まる。栄美は貴美恵に同意して、青いビニール製品をなでたり、つついたりしながらとりとめもなくしゃべり続ける。
里美が店の中に入ろうかとためらっていると、奥のコーナーで真次が手招きをしている。
「どうしたんですか」
里美が近寄ると、真次は棚にこぎれいに並べられたネックレスの一つを手に取った。涼しそうな彩りのプラスチック製品だった。
「わあ。素敵ですね」
「田中に買ってやるよ。約束したろ」
かがんでいた里美は上目づかいで真次を見た。
「いいんですか」
里美の丸い顔に扇風機の風があたり、髪が額にそよいでいる。それが妙にかわいらしかった。
「ああ」
真次はさらっと返事をすると、立ち上がって、さっさと店員にネックレスを渡した。
「ありがとうございます」
満面に笑みを浮かべる里美をよそに真次は店員から受け取った釣りを財布にしまいこんだ。店員がネックレスを包もうとするのを里美は止めた。
「私、そのまま付けて帰りたいんです」
「はい。じゃあ、値札を取りますね」
女性の店員が水色のネックレスを手渡す時、蛍光灯の光が透けて辺りにきらきらあふれた。
真次から買ってもらったネックレスを胸にひやりと感じて、幸せいっぱいで里美は夜道を歩いた。本当は真次の隣を腕を組んで歩きたかったが、さすがにそれはできなかった。真次は貴美恵と掛け合い漫才のように言い合いながら前を歩いていた。そして里美の隣には誰もいなく、浜辺で花火をしているのをちらちら見た。そのうちにうしろからぼそぼそ話し掛けてくるような気がした。うしろには彼女の同級生の山本大輔がいるだけのはずだった。
「田中さん、田中さん、何かネックレスが替わったような気がするんだけどなあ……」
やっと聞き取れて、彼女は振り向いた。夜の暗さの中に大輔の情けないような顔がこちらを見ていた。この人はどうしてもっとさわやかに話せないんだろう。ただでさえ暑いのに、ますますじっとりした空気が体にまとわりついてくるような気がした。しかし、彼の観察力の鋭さには意外に思った。それもそのはずである。彼はこの春入学して、同級生の里美に一目ぼれしてこのサークルに入ったのである。里美を思っては、日夜もんもんと暮らしている下宿生なのである。しかし、もちろん里美は何も気づかない。大輔は臆病だから、とても自分の気持ちを打ち明けられない。だから、彼女は大輔のことなど頭の片隅にも置いていない。
「ワー、これかわいいね!」と、店の前にぶらさがっているビニール製の魚類を手にとって、貴美恵は高い声を出す。他の者たちは自然とその店の前に立ち止まる。栄美は貴美恵に同意して、青いビニール製品をなでたり、つついたりしながらとりとめもなくしゃべり続ける。
里美が店の中に入ろうかとためらっていると、奥のコーナーで真次が手招きをしている。
「どうしたんですか」
里美が近寄ると、真次は棚にこぎれいに並べられたネックレスの一つを手に取った。涼しそうな彩りのプラスチック製品だった。
「わあ。素敵ですね」
「田中に買ってやるよ。約束したろ」
かがんでいた里美は上目づかいで真次を見た。
「いいんですか」
里美の丸い顔に扇風機の風があたり、髪が額にそよいでいる。それが妙にかわいらしかった。
「ああ」
真次はさらっと返事をすると、立ち上がって、さっさと店員にネックレスを渡した。
「ありがとうございます」
満面に笑みを浮かべる里美をよそに真次は店員から受け取った釣りを財布にしまいこんだ。店員がネックレスを包もうとするのを里美は止めた。
「私、そのまま付けて帰りたいんです」
「はい。じゃあ、値札を取りますね」
女性の店員が水色のネックレスを手渡す時、蛍光灯の光が透けて辺りにきらきらあふれた。
真次から買ってもらったネックレスを胸にひやりと感じて、幸せいっぱいで里美は夜道を歩いた。本当は真次の隣を腕を組んで歩きたかったが、さすがにそれはできなかった。真次は貴美恵と掛け合い漫才のように言い合いながら前を歩いていた。そして里美の隣には誰もいなく、浜辺で花火をしているのをちらちら見た。そのうちにうしろからぼそぼそ話し掛けてくるような気がした。うしろには彼女の同級生の山本大輔がいるだけのはずだった。
「田中さん、田中さん、何かネックレスが替わったような気がするんだけどなあ……」
やっと聞き取れて、彼女は振り向いた。夜の暗さの中に大輔の情けないような顔がこちらを見ていた。この人はどうしてもっとさわやかに話せないんだろう。ただでさえ暑いのに、ますますじっとりした空気が体にまとわりついてくるような気がした。しかし、彼の観察力の鋭さには意外に思った。それもそのはずである。彼はこの春入学して、同級生の里美に一目ぼれしてこのサークルに入ったのである。里美を思っては、日夜もんもんと暮らしている下宿生なのである。しかし、もちろん里美は何も気づかない。大輔は臆病だから、とても自分の気持ちを打ち明けられない。だから、彼女は大輔のことなど頭の片隅にも置いていない。