ナナの夏

15
そんな自分が今にして思うと、ずいぶんおめでたい人間だと感じ、口元がひきつった。ナナは俺が彼女はいないと言ったことを疑っているに違いないのだ。どうしても一度会って、俺が本当にナナのことしか好きじゃないと言わなければならない。
急に肩をたたかれて真次は驚いた。
「滝沢君、何さっきからぼーっとしてるのよ」
ビール瓶を持って貴美恵が真次に注ごうとする。ストライプのシャツに長い髪がかかっていてなまめかしい。
「何か酔いが回ったみたいでさ」
「私も酔っ払っちゃった。夜風に当たりに行くか」
真次には今、気さくで底抜けに明るい貴美恵が救いに思えた。真次も少し明るい声になって答えた。
「よし、行くか」
真次がすばやく立ち上がると貴美恵は目を大きくした。
「ずいぶんせっかちね。でも襲われたら困るから二人きりは嫌よ」そして、栄美を誘った。三人で出かけることになり、残った三人は、いってらっしゃいと明るく声をかけた。つい少し前までだったら真次がどこか行くと必ずついてくる里美も笑顔で手を振っている。
波打ち際で足を洗って、貴美恵と栄美ははしゃいでいる。真次は少し後方で腕組みしている。
「ねえ、栄美」と、貴美恵が妙にやわらかい調子で話し掛けた。「滝沢君て鈍いよね」そして、ちらっと真次を見た。真次は気づいたが何も言わない。栄美も盗み見るように真次をちらりと見た。
「そうよねえ」
「里美が気にしてるのにねえ。ネックレスのこと。私、言ったのよ。滝沢君の言うように偶然例の子が拾っただけだよって」
「里美も少しこだわりすぎたって反省してたみたいよね」
貴美恵はまた後ろを向いて、少し声を強めた。
「わかった? もう一度里美と話をしてみなよ」
「何だよ、おせっかい焼き」
「おせっかいじゃないよ。里美がかわいそうだよ」
「それがおせっかいだってんだよ。俺と田中が何だっていうんだよ」
「だって、君、里美のこと好きじゃないのか?」
貴美恵は足首まで波をかぶりながら腕組みして真次をにらんだ。
「さあ」
「何よそれ。まさか、昨日会ったばかりの高校生なんかにうつつを抜かしてるんじゃないでしょうね」
「うるさい」
真次は低い声で言うと、横を向いて砂を蹴った。
「あきれたあ」
貴美恵は口を開けたまま栄美と顔を見合わせた。そして下を向いて立っている真次に捨てゼリフを投げつけて栄美と一緒に立ち去った。
「滝沢君はいつもそんなだから女の子をその気にさせられないのよ」
その言葉が意外と深く刺さって、真次はしばらくその場から動けなかった。昨日の嵐とはうって変わって穏やかな夜だった。月光が海面をほのかに照らし、波の音がさわさわと鳴りつづけていた。
急に肩をたたかれて真次は驚いた。
「滝沢君、何さっきからぼーっとしてるのよ」
ビール瓶を持って貴美恵が真次に注ごうとする。ストライプのシャツに長い髪がかかっていてなまめかしい。
「何か酔いが回ったみたいでさ」
「私も酔っ払っちゃった。夜風に当たりに行くか」
真次には今、気さくで底抜けに明るい貴美恵が救いに思えた。真次も少し明るい声になって答えた。
「よし、行くか」
真次がすばやく立ち上がると貴美恵は目を大きくした。
「ずいぶんせっかちね。でも襲われたら困るから二人きりは嫌よ」そして、栄美を誘った。三人で出かけることになり、残った三人は、いってらっしゃいと明るく声をかけた。つい少し前までだったら真次がどこか行くと必ずついてくる里美も笑顔で手を振っている。
波打ち際で足を洗って、貴美恵と栄美ははしゃいでいる。真次は少し後方で腕組みしている。
「ねえ、栄美」と、貴美恵が妙にやわらかい調子で話し掛けた。「滝沢君て鈍いよね」そして、ちらっと真次を見た。真次は気づいたが何も言わない。栄美も盗み見るように真次をちらりと見た。
「そうよねえ」
「里美が気にしてるのにねえ。ネックレスのこと。私、言ったのよ。滝沢君の言うように偶然例の子が拾っただけだよって」
「里美も少しこだわりすぎたって反省してたみたいよね」
貴美恵はまた後ろを向いて、少し声を強めた。
「わかった? もう一度里美と話をしてみなよ」
「何だよ、おせっかい焼き」
「おせっかいじゃないよ。里美がかわいそうだよ」
「それがおせっかいだってんだよ。俺と田中が何だっていうんだよ」
「だって、君、里美のこと好きじゃないのか?」
貴美恵は足首まで波をかぶりながら腕組みして真次をにらんだ。
「さあ」
「何よそれ。まさか、昨日会ったばかりの高校生なんかにうつつを抜かしてるんじゃないでしょうね」
「うるさい」
真次は低い声で言うと、横を向いて砂を蹴った。
「あきれたあ」
貴美恵は口を開けたまま栄美と顔を見合わせた。そして下を向いて立っている真次に捨てゼリフを投げつけて栄美と一緒に立ち去った。
「滝沢君はいつもそんなだから女の子をその気にさせられないのよ」
その言葉が意外と深く刺さって、真次はしばらくその場から動けなかった。昨日の嵐とはうって変わって穏やかな夜だった。月光が海面をほのかに照らし、波の音がさわさわと鳴りつづけていた。