思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

6
ちょうどその時だよ。ある墓の前に、首をうなだれて立っている小さな女の子が見えたんだよ。あれ、おかしいな? さっきまで誰もいなかったけどなと思って目をこすってみたんだ。それは幻じゃなかった。今度はじっと俺の顔を見ているんだよ。まぁ、子供って大人の予想のつかない行動に出るからな。気まぐれにあっちいってみたり、こっちいってみたりするものだし、好奇心に駆られて、人の顔をじっと見つめたりすることもあるから、そんなにおかしいことでもないんだけどさ。でも大概、こっちからじっと顔を見つめてやると、すぐに目をそらしてちょこちょこ歩き出すもんだろ。その子は違うんだよ。まばたきもせずに俺の顔を見てさ、そのうちに驚くようなことを言い出したんだよ。えっ、何て言ったかって? それがさ、「しゅん君。」って、俺のことを呼ぶんだよ。びっくりしたよ。だけど、その時の声とか言い方とかで、俺は一瞬に小さい頃の記憶を取り戻したんだ。その子の声、その子のしゃべり方、その子の顔はまぎれもなく、小さい頃よく遊んでいた近所の桜って女の子だったんだよ。俺は思わず、「さっちゃん?」て、聞き返した。そう、桜という名のその女の子のことを、俺は「さっちゃん。」って、呼んでいたんだよ。その子は、「うん。」って、返事をして、にっこりと笑ったんだ。それから俺は妙な懐かしさで胸が熱くなった。
さっちゃんはおとなしい子だった。
初めは近所の子供たち皆で遊んでいたんだ。どういういきさつかもう忘れたたけど、その子と二人になることがよくあった。草花で首飾りを作ったり、ままごとをしたりしてたんだよ。
ある時ままごとをしていたら彼女が急に泣き出しちゃってさ。俺が朝会社に出かける夫という設定だった。彼女がスーツの上着を着せてくれる妻の役目さ。「帰りは何時ぐらいになるの?」って、さっちゃんが言った。俺は、「6時ぐらいには戻るよ。」と答えた。「早く帰ってきてね。」って、彼女は真顔で言うんだよ。涙までこぼしてさ。実はこの時俺のうちが引越しすることに決まっていて、まもなく隣町に移ることになっていたんだ。そうしたら彼女は泣きながらこんなことを言った。
「駿君、あたし、駿君のお嫁さんになりたい。そして、駿君と一緒にこんなふうにして暮らすの。朝は、会社に行く駿君の見送りをして、帰ってきたら、あたしの作った夕飯を一緒に食べるの。駿君、あたしのこと嫌い?」
今でもその時のさっちゃんの顔を思い出せるよ。俺のことを必死になって見つめて、俺が何て答えるのか待っていた。もしも俺がそこで「わからない。」なんて答えたら、大変なことになってしまうような気がした。それに、俺はさっちゃんのことが好きだった。もちろん、子供のことだから、男女が互いに好きになることの意味なんて、まったくわかっていなかったけれど、さっちゃんとは気が合うし、一緒にいると時間が経つのを忘れる気がしたんだ。別に何をするというわけでもないのに、何となくいつも一緒にいて、そしてそれが楽しかったんだ。そのさっちゃんが怖いほど真剣な眼差しで訊くから、俺はどうしたってさっちゃんを安心させてあげないわけにはいかないと思ったさ。それで、「ううん。」と答えて、大きく首を横に振った。さっちゃんはほっとした様子で、今度は「大きくなったらあたしをお嫁さんにしてくれる?」と訊いた。俺は、「うん。」と答えて、こくんと大きく頷いた。
さっちゃんはおとなしい子だった。
初めは近所の子供たち皆で遊んでいたんだ。どういういきさつかもう忘れたたけど、その子と二人になることがよくあった。草花で首飾りを作ったり、ままごとをしたりしてたんだよ。
ある時ままごとをしていたら彼女が急に泣き出しちゃってさ。俺が朝会社に出かける夫という設定だった。彼女がスーツの上着を着せてくれる妻の役目さ。「帰りは何時ぐらいになるの?」って、さっちゃんが言った。俺は、「6時ぐらいには戻るよ。」と答えた。「早く帰ってきてね。」って、彼女は真顔で言うんだよ。涙までこぼしてさ。実はこの時俺のうちが引越しすることに決まっていて、まもなく隣町に移ることになっていたんだ。そうしたら彼女は泣きながらこんなことを言った。
「駿君、あたし、駿君のお嫁さんになりたい。そして、駿君と一緒にこんなふうにして暮らすの。朝は、会社に行く駿君の見送りをして、帰ってきたら、あたしの作った夕飯を一緒に食べるの。駿君、あたしのこと嫌い?」
今でもその時のさっちゃんの顔を思い出せるよ。俺のことを必死になって見つめて、俺が何て答えるのか待っていた。もしも俺がそこで「わからない。」なんて答えたら、大変なことになってしまうような気がした。それに、俺はさっちゃんのことが好きだった。もちろん、子供のことだから、男女が互いに好きになることの意味なんて、まったくわかっていなかったけれど、さっちゃんとは気が合うし、一緒にいると時間が経つのを忘れる気がしたんだ。別に何をするというわけでもないのに、何となくいつも一緒にいて、そしてそれが楽しかったんだ。そのさっちゃんが怖いほど真剣な眼差しで訊くから、俺はどうしたってさっちゃんを安心させてあげないわけにはいかないと思ったさ。それで、「ううん。」と答えて、大きく首を横に振った。さっちゃんはほっとした様子で、今度は「大きくなったらあたしをお嫁さんにしてくれる?」と訊いた。俺は、「うん。」と答えて、こくんと大きく頷いた。