思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-
9
「俺が見たあの女の子は一体何だったんだろう?」
「わからないわ? とにかくこの気味の悪い家から出ましょうよ。」
「ああ、そうだな。」
俺は素直に従った。美岐は俺の両手をつかんで言った。
「あなた、ひどく熱いわよ。熱がかなりありそうよ。」
そう言われて初めて、体中が熱くてだるいことに気付いた。別々にこの場所にやってきた俺たちは、また別々の車で家に帰った。
家に着いて、美岐に世話してもらいながらベッドに横たわると、俺はそのまま死んだように眠ってしまった。目が覚めて、美岐の用意してくれたリンゴジュースを飲むとやっとほっとした。俺は美岐に聞いた。
「それにしても、お前はどうして、俺があそこにいることがわかったんだ?」
美岐は答えた。
「それがね。たまたま家に帰る途中、あなたが交差点を曲がるのを見かけたから、一緒にお昼を食べようと思って後をついて曲がったら、あなたが車からちょうど降りるのが見えたの。私もあなたの車の横に車を止めて、あなたの近くに歩いていったら、あなたは一人でどんどん行ってしまって、私が名前を呼んでも聞こえないみたいなの。やっとあなたに近付いたと思ったら、あなたはあの気味の悪い家の中に入って行こうとしてるから、私、びっくりして、思わずあなたのすぐ後ろに行って、大声で呼んだら、やっとあなた、私に気付いたのよ。そしたら、ここにいた女の子はどうしたって、わけのわからないことを言って、今にも崩れそうなボロ家の中に入って行ったのよ。私があの怖ろしいボロ家に入って止めるまであなたはその女の子がいると信じて疑わなかったわ。私はあなたの肩をつかんで強くゆさぶったのよ。あなたの両手もぎゅっと握ったのよ。『あなた、お願い。しっかりしてよ。』って必死に祈りながら、ぎゅっと握り締めたのよ。そしたら、あなた、突然ブルブル震えだしたわ。すごかったわ。『そうか、さっちゃんが、30年前のままのわけないもんな。』って、妙に納得してたわ。ねぇ、さっちゃんって、一体誰なの?」
そう美岐に訊かれて、まるで何者かに引きずりこまれたかのような、深い眠りの底にいた俺は、やっと目覚めたんだ。そして、暗い水底のような俺の夢の中で起こったように錯覚した出来事が、まぎれもない現実だということを思い知らされた。俺はベッドから起き上がって、美岐に全てを話した。美岐は半信半疑のようだった。俺の頭がどうかしてしまったんだろうと思ったかもしれない。……話というのはこれだけだよ。何でこんな話になったんだっけ? そうだ、シュープリームスだ。シュープリームスの歌を聴いていたら思い出したんだ。あの歌を聴くと、あの時代を思い出すんだよ。小さい頃にどっかで聴いたんだよな。さっちゃんと遊んでいる時に聴いたような気がするんだよ。この曲を聴くと、その頃の記憶が蘇ってくるんだ。どこで聴いたのかはわからない。さっちゃんのうちには遊びに行ったことがなかったけど、何人かで俺のうちに遊びに来たことがあったかもしれない。どこで聴いたのかはたいした問題じゃないのさ。とにかくさっちゃんと一緒にいた時にこの曲をどこかで聴いたっていう気がするんだよ。いや、もしかしたら一緒に聴いたというのも気のせいかもしれないよ。それはこの際どっちでもいいさ。とにかくこれを聴くと、この時代のこと、特にさっちゃんのことを思い出すんだよ。そういうのってわかるだろ?
「わからないわ? とにかくこの気味の悪い家から出ましょうよ。」
「ああ、そうだな。」
俺は素直に従った。美岐は俺の両手をつかんで言った。
「あなた、ひどく熱いわよ。熱がかなりありそうよ。」
そう言われて初めて、体中が熱くてだるいことに気付いた。別々にこの場所にやってきた俺たちは、また別々の車で家に帰った。
家に着いて、美岐に世話してもらいながらベッドに横たわると、俺はそのまま死んだように眠ってしまった。目が覚めて、美岐の用意してくれたリンゴジュースを飲むとやっとほっとした。俺は美岐に聞いた。
「それにしても、お前はどうして、俺があそこにいることがわかったんだ?」
美岐は答えた。
「それがね。たまたま家に帰る途中、あなたが交差点を曲がるのを見かけたから、一緒にお昼を食べようと思って後をついて曲がったら、あなたが車からちょうど降りるのが見えたの。私もあなたの車の横に車を止めて、あなたの近くに歩いていったら、あなたは一人でどんどん行ってしまって、私が名前を呼んでも聞こえないみたいなの。やっとあなたに近付いたと思ったら、あなたはあの気味の悪い家の中に入って行こうとしてるから、私、びっくりして、思わずあなたのすぐ後ろに行って、大声で呼んだら、やっとあなた、私に気付いたのよ。そしたら、ここにいた女の子はどうしたって、わけのわからないことを言って、今にも崩れそうなボロ家の中に入って行ったのよ。私があの怖ろしいボロ家に入って止めるまであなたはその女の子がいると信じて疑わなかったわ。私はあなたの肩をつかんで強くゆさぶったのよ。あなたの両手もぎゅっと握ったのよ。『あなた、お願い。しっかりしてよ。』って必死に祈りながら、ぎゅっと握り締めたのよ。そしたら、あなた、突然ブルブル震えだしたわ。すごかったわ。『そうか、さっちゃんが、30年前のままのわけないもんな。』って、妙に納得してたわ。ねぇ、さっちゃんって、一体誰なの?」
そう美岐に訊かれて、まるで何者かに引きずりこまれたかのような、深い眠りの底にいた俺は、やっと目覚めたんだ。そして、暗い水底のような俺の夢の中で起こったように錯覚した出来事が、まぎれもない現実だということを思い知らされた。俺はベッドから起き上がって、美岐に全てを話した。美岐は半信半疑のようだった。俺の頭がどうかしてしまったんだろうと思ったかもしれない。……話というのはこれだけだよ。何でこんな話になったんだっけ? そうだ、シュープリームスだ。シュープリームスの歌を聴いていたら思い出したんだ。あの歌を聴くと、あの時代を思い出すんだよ。小さい頃にどっかで聴いたんだよな。さっちゃんと遊んでいる時に聴いたような気がするんだよ。この曲を聴くと、その頃の記憶が蘇ってくるんだ。どこで聴いたのかはわからない。さっちゃんのうちには遊びに行ったことがなかったけど、何人かで俺のうちに遊びに来たことがあったかもしれない。どこで聴いたのかはたいした問題じゃないのさ。とにかくさっちゃんと一緒にいた時にこの曲をどこかで聴いたっていう気がするんだよ。いや、もしかしたら一緒に聴いたというのも気のせいかもしれないよ。それはこの際どっちでもいいさ。とにかくこれを聴くと、この時代のこと、特にさっちゃんのことを思い出すんだよ。そういうのってわかるだろ?