思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

桜
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 と、そこまで考えて、私は自分自身にあきれた。小さな子供の頃の口約束を信じて、死んでからも一人の男のことを慕い続ける幽霊がいる。その霊はかつて男の恋人を殺した。そして、今度はまた誰かを……。私は思わず小さな声で馬鹿らしいとつぶやいてしまった。遼子に聞かれたかなと思って、ベッドの隣を見た。寝室は真っ暗だから何も見えないが、遼子が起きだした気配はなかったので、私はほっとした。私はまた自分の思索の中に入り込んでいった。第一、門倉の幼馴染が死んだことすらわからないのである。私はもう一度その前提に考えを戻した。もちろん彼女が死んだ可能性を否定することはできない。しかし、現代の日本では、大部分の人間が80歳まで生きるのである。従って、その幼馴染が今も生きていると考える方が統計的には自然な流れである。これは私自身をよく納得させるものだったが、何かひっかることがあった。そうだ! 子供の頃の姿のままで現れたことはどう説明すればいい? しかし、と私は思った。そもそもそんなものを本当に門倉が見たのかどうかも疑ってかかるべきだろう。ちょっと待てよ、私は自分で自分に混ぜっ返した。璃鴎もその子を見たと言っていたじゃないか。正直に言って、このようなことに関しては、門倉には悪いが、彼よりは璃鴎の方が断然信憑性が高い。それでは、生霊が門倉のことを思っていた当時の姿のままで現れたと考えてみてはどうだろうか? だめだ。そんなふうに、物事を少しでも複雑化すると、全く収拾がつかなくなってしまう。ふぅー! 私は大きなため息をついた。
 単純に考えることだ。
 私はもう一度頭の中を整理し直した。
 まず、彼を思っている女の子がその当時の姿で現れたということは、彼女がその頃に死んでしまったということを意味している。あまり認めたくない考えだけれど、こちらの方がすっきりとするというのならそう考えてみようじゃないか。それで、一体彼女の現れた目的は何だ? やはり、私には計り知れない霊妙な力を用いて、自分の永遠の伴侶であるべき門倉に近付く女を強烈に排除することか? 彼女は、そうやって、約20年前に湖山翔子を事故死させた。ということは、今度の狙いは……奥さんの命か? よし、わかった。そうだとしよう。それで、そうだとして、では、それを知った我々はどうすればよいのか? 美岐さんを守るためにその子の霊を成仏させる。ふぅー! 私はまたもや大きなため息をついた。なんだ、結局、遼子が一瞬で判断した解決法であり、もうすでに門倉に提案済みではないか。やはり私は遼子には勝てないな。遼子が瞬時に考えたことを、夜通し考え抜いてやっと理解できたなんてな。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-
◆ 執筆年 2007年4月1日