思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

23
私は自分ののろま加減を呪って、掛け布団をかぶりなおして少しだけでも眠っておこうとした。でも、何かもう一つ頭に引っかかっていることがあるような気がして、また考え始めた。病院のロビーにいた女の子のことだ。私は何となくとらえどころのない、あの女の子の様子を思い浮かべて、ぞっとした。あの女の子は、本当に門倉の幼馴染の幽霊だったということなのだろうか? しかし、……しかし、……しかし、……。私はベッドの中で思わずかぶりを振った。いや、違う。そうじゃない。私が見た、病院にいたあの女の子が霊であるはずはないんだ。なぜなら、私は今まで一度だって霊という不思議な現象を見たことがなかったからだ。そのような私の感覚の鈍さを遼子はほめる。あなたほど鈍いのは、一種の能力ね、と。私が、からかうな、と言うと、彼女は、真面目にほめているのよ、と真顔で言う。
「怖がらない人のところにしか霊は現れないのよ。あなたみたいな怖がり屋さんのところへは出てこないの。」
「からかっているようにしか聞こえないぞ。」
「そうじゃないわよ。教えているだけよ。」
私はその時じっと遼子の目を見て、彼女がふざけているのではないことを理解した。
「そういうものか? 不思議なものだな。じゃあ、俺も怖がらなくなれば、見ることが出来るようになるんだな?」
「それは無理よ。」
「どうしてだ?」
「だって、怖がらなくならないでしょ?」
私はその時自分のことをよく考えてみて、全くその通りだと納得した。私は全くの怖がりであった。私は一人で暗いところにいると怖くて仕方なくなる。それは基本的には大人になった今でも変わらない。そしてこれからも変わるまい。ということは遼子の説に従えば、私は一生、霊などというものを見ないはずだ。私はこの方面における遼子の意見にはいつも感覚的に納得している。そうだ。そうなんだ。私が霊を見るはずはないのだ。これまでも見なかったし、これからも見ることはない。だから、病院のロビーで会った女の子は、ただの女の子だ。つまり、湖山翔子が死んだのは、事故が原因であって、霊の仕業なんて全く関係ない。私の頭の中で門倉の幼馴染と病院の女の子がだぶっただけで、実際は両者は何の関係もない。幼馴染の霊が門倉たちにまとわりついたのは今回が初めてで、それによって門倉夫妻はおびえているが、遼子が解決策を示したから、もう時間の問題である。よし、全て辻褄があったぞ。これでやっと、私の頭の中でもやもやしていたことがすっかり晴れ渡った。頭の中の緊張と混乱がほどけるのと同時に、原初的な感覚が戻ってきた。暗い寝室で目を覚ましていることがだんだん怖くなってきたのだ。本当に私にとって暗闇は恐怖なのである。目を開けると、誰かの顔が私をのぞいているのではないかと思う。昔見たホラー映画や怖い夢の場面が浮かんでくる。トイレに行きたくなって、勇気を出して立ち上がり、トイレのドアを開ける。そのとたんに、狭い空間から何かが現れるのではないかと思う。トイレの窓に掛かっているカーテンを開くと、さかさまにぶら下がった誰かの顔がこちらをにらむのではないかと思う。私は小さい頃から本当に怖がりだ。だから、霊を見ることはない。霊を見ないから怖い思いをしなくて済む。寝室に再び戻った私は、このようなパラドキシカルな発想法によって、安心を得、やっと眠りにつくことが出来た。
「怖がらない人のところにしか霊は現れないのよ。あなたみたいな怖がり屋さんのところへは出てこないの。」
「からかっているようにしか聞こえないぞ。」
「そうじゃないわよ。教えているだけよ。」
私はその時じっと遼子の目を見て、彼女がふざけているのではないことを理解した。
「そういうものか? 不思議なものだな。じゃあ、俺も怖がらなくなれば、見ることが出来るようになるんだな?」
「それは無理よ。」
「どうしてだ?」
「だって、怖がらなくならないでしょ?」
私はその時自分のことをよく考えてみて、全くその通りだと納得した。私は全くの怖がりであった。私は一人で暗いところにいると怖くて仕方なくなる。それは基本的には大人になった今でも変わらない。そしてこれからも変わるまい。ということは遼子の説に従えば、私は一生、霊などというものを見ないはずだ。私はこの方面における遼子の意見にはいつも感覚的に納得している。そうだ。そうなんだ。私が霊を見るはずはないのだ。これまでも見なかったし、これからも見ることはない。だから、病院のロビーで会った女の子は、ただの女の子だ。つまり、湖山翔子が死んだのは、事故が原因であって、霊の仕業なんて全く関係ない。私の頭の中で門倉の幼馴染と病院の女の子がだぶっただけで、実際は両者は何の関係もない。幼馴染の霊が門倉たちにまとわりついたのは今回が初めてで、それによって門倉夫妻はおびえているが、遼子が解決策を示したから、もう時間の問題である。よし、全て辻褄があったぞ。これでやっと、私の頭の中でもやもやしていたことがすっかり晴れ渡った。頭の中の緊張と混乱がほどけるのと同時に、原初的な感覚が戻ってきた。暗い寝室で目を覚ましていることがだんだん怖くなってきたのだ。本当に私にとって暗闇は恐怖なのである。目を開けると、誰かの顔が私をのぞいているのではないかと思う。昔見たホラー映画や怖い夢の場面が浮かんでくる。トイレに行きたくなって、勇気を出して立ち上がり、トイレのドアを開ける。そのとたんに、狭い空間から何かが現れるのではないかと思う。トイレの窓に掛かっているカーテンを開くと、さかさまにぶら下がった誰かの顔がこちらをにらむのではないかと思う。私は小さい頃から本当に怖がりだ。だから、霊を見ることはない。霊を見ないから怖い思いをしなくて済む。寝室に再び戻った私は、このようなパラドキシカルな発想法によって、安心を得、やっと眠りにつくことが出来た。