思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

桜
prev

29

 続いて、以下は璃鴎と遼子が相談してまとめた意見である。
 彼らの考えによると、女の子はやはり門倉を守っているということだ。その姿が薄まって見えるのは、守る力が弱まってしまったということを意味しているのである。門倉が体調を崩したのも、そのことと何らかの関係があるに違いない。璃鴎としては、どうしても確かめたいことがあるから、門倉と私だけで話ができる機会を作ってほしいということだ。明日、女子大生と昼食を食べるのは絶好の機会だから、なんとしても門倉を誘ってほしい。それだと私と門倉の二人きりにはならないが、それでも構わない。とにかく奥さんがいないところで私と門倉が会いさえすればいいのだ。璃鴎は私にその点を強く強調した。
 「一体門倉から何を聞き出せばいいんだ?」と訊くと、突然アラームが鳴り出し、グラタンが出来上がったことを知らせた。
 「パパ、グラタン、熱いうちに運んでくださらない。」そして小声でつけたした。「説明は後でするわ。」
 遼子は手早くグラタン皿をトレーに載せて、私に手渡した。
 私があつあつのグラタンを持ってダイニングに入ると、門倉と門倉の奥さんは喜んだ。奥さんはグラタン皿をテーブルに並べてくれた。酒やつまみやフルーツなども並べられ、私たちは陽気な晩餐を数時間楽しんだ。その間に一度門倉の奥さんは席を立った。「化粧室を貸していただけますか?」と彼女はなかなか上品な言い方をした。その隙に門倉に例の件を提案すると、彼は一も二もなく承知した。私が、「奥さんには内緒で。」と付け加えると、彼は勝手に意味を深読みして、それほど上品ではない笑い方をした。
 私は内心、璃鴎と遼子の立てた計画の緻密さに舌を巻いた。彼らはここまで計算して美しい女子大生を私の家に差し向けるように仕組んだのだろうか。しかし、門倉が今日来ることは予測できないはずだから、もちろんそんなことはありえないのだが、偶然にしても、その思惑は見事に的を射ている。なぜなら体調がすこぶる悪くて今にも死にそうだと言う門倉の顔に血の気がさして急に快活さを取り戻したからだ。彼は今よりずっと体調が悪くなったとしても、明日は私の家に間違いなくやってくるだろう。這ってでもやってくるに違いない。
 奥さんが戻ってきた。その後の門倉は、この夜あまり話をしなかった分を取り戻すかのように饒舌であった。自分の体調が悪いことを忘れてしまったのではないかと思わせるほどだった。それほど、「女子大生」という言葉は彼に力を与えたのだろう。
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-
◆ 執筆年 2007年4月1日