思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

桜
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 門倉が帰って少しすると、女の子たちもお暇すると言うので、私は駅まで車で送っていくことにした。来るときは駅からバスに乗ったらしいが、本数が少なく、かなり待たされたらしいので、私の申し出を彼女たちは非常に喜んだ。
 茉梨絵が助手席に乗りたがったので、桃子は後部座席に乗った。茉梨絵は助手席に乗るとすぐにケータイを開いた。どうやら門倉の持っていた薬をすぐに調べたかったようである。それなら確かに桃子とは別の席の方が都合がいい。彼女がケータイで調べ始めると、私のケータイが鳴った。遼子からだった。
 「門倉さんはもうお帰りになったの?」
 「ああ、帰ったよ。」
 「ねぇ、お願いがあるの。△△神社でお札を受けてきてほしいの。」
 「随分急に、妙なものを頼むじゃないか?」
 「ごめんなさい。でも、すぐお願い。大至急よ。今、お札の画像、送るわ。場所はナビで調べて。」
 「ちょっと、待てよ。今、蒲生さんたちを駅に送り届けるところなんだよ。そうしたら行ってみるよ。」
 「それじゃ遅いのよね。ねぇ、夕食もおごることにして、彼女たちを乗せたままお札を買って、ここまで届けてよ。」
 「それじゃあ、この子たちに悪いよ。」
 桃子が嘴を容れた。
 「私たち、別に暇だから、何でもお手伝いしますよ。ねぇ、茉梨絵。」
 「うん。」
 二人の高揚した気分がケータイ越しに伝わって、遼子は勢いづいた。
 「ほら、その子たち子供みたいにはしゃいでるじゃない。大丈夫よ。この子たちはあなたの言うことを何でも聞くから、頼みたいことがあったら何でも言いつけて。」
 「わかった。それで、お札を受けたらどこに行けばいいんだ?」
 遼子は愛車クロスポロのナビで確認した住所を私に教えてくれた。私はそれを、聞いたそばから茉梨絵に伝え、私のインスパイアーのナビに入力させた。私たちの想像はかなり当たっていたらしい。墓はやはり門倉の幼馴染の桜さんいう女の子のものだった。そして桜さんの生家は墓のすぐ近くに現存していた。桜さんは小さい頃に病気で死んでいた。病名はわからない。母親は遼子たちに病名を言わなかったし、かと言って、こちらから訊くようなことでもなかったからだ。
 ケータイを顔の側面に押し当ててそんな話をしていたら、桃子たちが「私たちが聞いちゃまずいですか?」と言い出したので、私は「全然かまわないよ。」と言って、ケータイをダッシュボードにセットしハンズフリーにした。差し支えのない範囲で遼子と私が彼女たちに概略を説明した。彼女たちは、私の古典についての概略よりも熱心に門倉についての概略を聞き、私の古典についての助言よりも熱心に、門倉の不思議な出来事の多くを知りたがった。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-
◆ 執筆年 2007年4月1日