思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

35
さて、門倉が桜さんの霊に連れて行かれた廃屋は建て替え前に桜さんの家族が住んでいた所だった。表札はあってもぼろぼろの廃墟になっていたのはそういうわけだったのだ。建て替えた今の家には桜さんの両親が住んでいた。
今朝、遼子と璃鴎はディズニーランドに行くという演技をして出て行った。私も彼らがディズニーランドに行くのではないことは百も承知だったが、彼らに合わせて演技をした。ところが彼らの車を見送っていると、彼らの様子がいかにも休日にディズニーランドに行く親子のようだったので、私は思わず錯覚するほどだった。しかしながら、彼らはやはりディズニーランドには行かなかった。遼子と璃鴎は、門倉から聞いた墓に真直ぐ向かったのだった。そして墓の近くの民家を一軒一軒聞いて回り、昼頃には桜さんの生家を探し出していた。
遼子は桜さんの母親の顔を見るとすぐに、「主人が桜さんと幼馴染なんです。」とうそを言った。
「友人の門倉さんから聞いて、気の毒がって墓参りに来たついでに、実家に寄って線香だけでもあげさせていただこうと思ってお伺いしたのです。」
遼子は感心なくらいに巧みに話を作った。
「ところがお墓に着いたら、こういうことには普段慣れていないので、線香を買い忘れてきたことに気付いて、主人は私たちを置いて、どこかへ買いに行ったんですが、何しろ子供のときの記憶しかないし、車で走るとまた様子が違うので、どこかで迷っているのかもしれません。あまり遅いからちょっと様子を見てきます。」
そんなふうに遼子が桜さんの母にまことしやかに説明して、璃鴎と一緒に愛車に戻ってからもう1時間以上経ってしまった、ということだった。
遼子の声は車のスピーカーを通して、三人の耳に鳴り響いた。
「途中で主人に会えたけど、とりあえずお昼を食べて出直そうということになってしまって、こんなに遅くなってしまったんです、とでもごまかせばいいけど、まさか暗くなってから訪問するわけにはいかないから、できるだけ早く来てね。それに、璃鴎が心配しているの。早くしなくちゃ大変だって、何度も言うのよ。具体的なことは何も分からないのよ。ただとても胸騒ぎがするらしいの。あっ、それからね。」
遼子の話はまだ続いた。私たちはただひたすら静かに聞き入っていた。
「仏壇に飾ってある桜さんの写真を見たら、それはまぎれもなく璃鴎が見た女の子そのものだったんですって。」
私の背筋に冷たいものが走った。
「さっき送ったお札の写真を撮るのも大変だったのよ。璃鴎をトイレに案内してもらって、その隙に私がケータイで撮影したの。よく撮れてるでしょ。それがあれば、神社にいろいろな種類があっても迷わず買えるでしょ?」
その神社に間もなく到着する所だった。
「先生、私にもその画像を送ってください。」
茉梨絵がそう要求すると、遼子は問いただした。
「いいけど、なぜ?」
「神社の受付から最短距離の路上で車を止めて、私が走って買ってきた方がよくはないですか?」
「あなた、賢いわね。じゃあ、すぐ送るわ。」
今朝、遼子と璃鴎はディズニーランドに行くという演技をして出て行った。私も彼らがディズニーランドに行くのではないことは百も承知だったが、彼らに合わせて演技をした。ところが彼らの車を見送っていると、彼らの様子がいかにも休日にディズニーランドに行く親子のようだったので、私は思わず錯覚するほどだった。しかしながら、彼らはやはりディズニーランドには行かなかった。遼子と璃鴎は、門倉から聞いた墓に真直ぐ向かったのだった。そして墓の近くの民家を一軒一軒聞いて回り、昼頃には桜さんの生家を探し出していた。
遼子は桜さんの母親の顔を見るとすぐに、「主人が桜さんと幼馴染なんです。」とうそを言った。
「友人の門倉さんから聞いて、気の毒がって墓参りに来たついでに、実家に寄って線香だけでもあげさせていただこうと思ってお伺いしたのです。」
遼子は感心なくらいに巧みに話を作った。
「ところがお墓に着いたら、こういうことには普段慣れていないので、線香を買い忘れてきたことに気付いて、主人は私たちを置いて、どこかへ買いに行ったんですが、何しろ子供のときの記憶しかないし、車で走るとまた様子が違うので、どこかで迷っているのかもしれません。あまり遅いからちょっと様子を見てきます。」
そんなふうに遼子が桜さんの母にまことしやかに説明して、璃鴎と一緒に愛車に戻ってからもう1時間以上経ってしまった、ということだった。
遼子の声は車のスピーカーを通して、三人の耳に鳴り響いた。
「途中で主人に会えたけど、とりあえずお昼を食べて出直そうということになってしまって、こんなに遅くなってしまったんです、とでもごまかせばいいけど、まさか暗くなってから訪問するわけにはいかないから、できるだけ早く来てね。それに、璃鴎が心配しているの。早くしなくちゃ大変だって、何度も言うのよ。具体的なことは何も分からないのよ。ただとても胸騒ぎがするらしいの。あっ、それからね。」
遼子の話はまだ続いた。私たちはただひたすら静かに聞き入っていた。
「仏壇に飾ってある桜さんの写真を見たら、それはまぎれもなく璃鴎が見た女の子そのものだったんですって。」
私の背筋に冷たいものが走った。
「さっき送ったお札の写真を撮るのも大変だったのよ。璃鴎をトイレに案内してもらって、その隙に私がケータイで撮影したの。よく撮れてるでしょ。それがあれば、神社にいろいろな種類があっても迷わず買えるでしょ?」
その神社に間もなく到着する所だった。
「先生、私にもその画像を送ってください。」
茉梨絵がそう要求すると、遼子は問いただした。
「いいけど、なぜ?」
「神社の受付から最短距離の路上で車を止めて、私が走って買ってきた方がよくはないですか?」
「あなた、賢いわね。じゃあ、すぐ送るわ。」