思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

桜
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 遼子がケータイの向こうから、事の顛末を簡潔に話した。しかし、デリケートな事柄なので、憶測は極力さしはさまず、事実として挙げられることだけを慎重に選んだ。
 事実として言えることは次の4点である。
 1点目。門倉の奥さんは看護師である。
 2点目。風邪薬程度は奥さんが自分が病気であることにしていつも病院から持ってきている、と門倉が言った。
 3点目。少なくとも今回奥さんが持ってきてくれた薬に限っては、健康な人が三日も飲むと体に変調をきたすほど強い薬であることが、茉梨絵によってインターネットで確かめられた。
 4点目。門倉は日に日に体調が悪くなっていくようだ、と言っていた。
 遼子がそのように冷静に事実を整理していたら、桃子がたまらず自分の心情を率直に漏らした。
 「あんなに楽しくていい人なのに、奥さん、ひどい。」
 「そうよねぇ、はっきり奥さんの仕業とは決め付けられないけど、状況的にはかなりあやしいよね。」
 理系の茉梨絵は比較的冷静に言った。
 「でも、早くこのことを門倉さんに伝えないと大変なことになるわ。」
 シュープリームスの曲のことで門倉と話が合った桃子は、心配そうな表情だった。
 「璃鴎君が急がないと大変だって言ったのは、このことだったのね。」
 「桃ちゃん、だめよ。推論と事実を一緒にしているわよ。璃鴎はそこまではわからないのよ。ただ、とても心配らしいの。それであなたたちに急いでもらっているの。」
 「お札をそっちに持っていくのより、門倉さんにこのことを知らせるのを先にした方がいいんじゃないですか?」
 茉梨絵が意見を言った。それは確かに最もだった。
 「あまり堀川さんの家を訪問するのが遅くなるのもどうかと思うけれど、この際仕方ないかな。」
 遼子も茉梨絵の意見に傾いたので、私はインスパイアーの進路を変更した。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-
◆ 執筆年 2007年4月1日