思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

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「ごめんなさい。出たくても出られなかったのよ。」
私のいる部屋に遼子が入ってきた。茉梨絵と桃子も一緒だった。そして、門倉の奥さんも一緒だった。遼子たち三人に囲われるようにして、門倉の奥さんは戻ってきた。璃鴎も入ってきた。
私は門倉の奥さんに訊いた。
「奥さんは、ご自分のなさったことを理解してますね?」
奥さんは顔を両手で覆ったまま、うなずいた。
「今、救急車が到着するでしょう。警察にも連絡してよろしいですね?」
奥さんは、やはり泣きじゃくりながら、うなずいた。
しばらくして、門倉は病院に搬送された。
そして、そのすぐあとに、門倉の奥さんはパトカーで連れて行かれた。
私はこの事件の起こった日から数日の間に、門倉から聞いて概要を知った。
奥さんは門倉に多額の保険金を掛けていた。彼女は保険金から相応の分け前を渡すという条件で、懇意の男性医師に門倉の死亡診断書を捏造してもらうことになっていた。その医師はギャンブルにつぎ込んで金に困っていたし、どうやら門倉の奥さんと抜き差しならぬ仲になっていて、断ることができなかったらしい。
奥さんは自分の立てた計画を着々と実行していった。まずは、自分の勤務する病院からくすねてきた強い薬を風邪薬だと言って門倉に与えた。そのため門倉は、まるで殺虫剤を浴びて動きがのろくなった毛虫や蝿のように、どんどん弱くなっていった。そしてあの日、私たちが、桜さんの家から大急ぎで門倉家に向かっている頃、奥さんは門倉に睡眠薬を飲ませた。あとは、共犯の医師に電話して、彼に最後の措置と死亡診断をしてもらうだけだった。最後の措置というのは、投薬で衰弱し睡眠薬で深い眠りに落ちている門倉に、ある種の薬を注射するということだった。もしその通りになっていれば、彼は永久に眠りから覚めることはなかったはずである。そして悪徳医師が心不全とかなんとか診断するだけで、彼をこの国の生存者の戸籍から消し去ることができたのだ。そうすれば、法的に何の問題もなく、門倉の奥さんは高額の保険金を手にすることができ、悪徳医師は約束通り、分け前にありつけたはずだった。その後、奥さんは、1、2年前から交際していた若い愛人と一緒に暮らすつもりだったそうだ。
そうなのだ。奥さんの計画は全く何の支障もなく進行し、あとほんの少しで完遂する瞬間まで来ていたのだった。私が、せめてあの日だけでも、門倉の家のドアチャイムを鳴らさなければ。しかし、私は門倉の家の玄関の前に立ち、ドアチャイムを鳴らした。それは、まさに門倉の奥さんが共犯の医師に連絡しようと、受話器を手にした瞬間だったのだ。
全ては終わった。奥さんのもくろみも何もかも。
門倉は何日か入院しただけですぐに回復した。そして彼は子供たちと三人で元の家で平和に暮らしている。
奥さんと共犯の医師は、殺人未遂で逮捕されたが、門倉は告訴はしないと言っていたから、ほんの少しの間だけ留置所に留まった後、また社会のどこかで普通の生活人として暮らすことになるのだろう。
私のいる部屋に遼子が入ってきた。茉梨絵と桃子も一緒だった。そして、門倉の奥さんも一緒だった。遼子たち三人に囲われるようにして、門倉の奥さんは戻ってきた。璃鴎も入ってきた。
私は門倉の奥さんに訊いた。
「奥さんは、ご自分のなさったことを理解してますね?」
奥さんは顔を両手で覆ったまま、うなずいた。
「今、救急車が到着するでしょう。警察にも連絡してよろしいですね?」
奥さんは、やはり泣きじゃくりながら、うなずいた。
しばらくして、門倉は病院に搬送された。
そして、そのすぐあとに、門倉の奥さんはパトカーで連れて行かれた。
私はこの事件の起こった日から数日の間に、門倉から聞いて概要を知った。
奥さんは門倉に多額の保険金を掛けていた。彼女は保険金から相応の分け前を渡すという条件で、懇意の男性医師に門倉の死亡診断書を捏造してもらうことになっていた。その医師はギャンブルにつぎ込んで金に困っていたし、どうやら門倉の奥さんと抜き差しならぬ仲になっていて、断ることができなかったらしい。
奥さんは自分の立てた計画を着々と実行していった。まずは、自分の勤務する病院からくすねてきた強い薬を風邪薬だと言って門倉に与えた。そのため門倉は、まるで殺虫剤を浴びて動きがのろくなった毛虫や蝿のように、どんどん弱くなっていった。そしてあの日、私たちが、桜さんの家から大急ぎで門倉家に向かっている頃、奥さんは門倉に睡眠薬を飲ませた。あとは、共犯の医師に電話して、彼に最後の措置と死亡診断をしてもらうだけだった。最後の措置というのは、投薬で衰弱し睡眠薬で深い眠りに落ちている門倉に、ある種の薬を注射するということだった。もしその通りになっていれば、彼は永久に眠りから覚めることはなかったはずである。そして悪徳医師が心不全とかなんとか診断するだけで、彼をこの国の生存者の戸籍から消し去ることができたのだ。そうすれば、法的に何の問題もなく、門倉の奥さんは高額の保険金を手にすることができ、悪徳医師は約束通り、分け前にありつけたはずだった。その後、奥さんは、1、2年前から交際していた若い愛人と一緒に暮らすつもりだったそうだ。
そうなのだ。奥さんの計画は全く何の支障もなく進行し、あとほんの少しで完遂する瞬間まで来ていたのだった。私が、せめてあの日だけでも、門倉の家のドアチャイムを鳴らさなければ。しかし、私は門倉の家の玄関の前に立ち、ドアチャイムを鳴らした。それは、まさに門倉の奥さんが共犯の医師に連絡しようと、受話器を手にした瞬間だったのだ。
全ては終わった。奥さんのもくろみも何もかも。
門倉は何日か入院しただけですぐに回復した。そして彼は子供たちと三人で元の家で平和に暮らしている。
奥さんと共犯の医師は、殺人未遂で逮捕されたが、門倉は告訴はしないと言っていたから、ほんの少しの間だけ留置所に留まった後、また社会のどこかで普通の生活人として暮らすことになるのだろう。