思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-

桜
prev

47

 まだ肌寒い頃、門倉が子供たちを連れて私の家に挨拶に来た。門倉は私たちのことを命の恩人だと言って、いたく感謝していた。璃鴎が、小父さんを助けたのは桜さんだよ、桜さんのことを大切にした方がいいよ、と言った。それは全くその通りだと、門倉は妙に納得した。そこへ遼子が、桜さんの墓参りに行こうと提案した。そういうわけで、気持ちよく晴れた春のある日、私たちは桜さんのところへ行くことにした。遼子がふと漏らしたのを聞いて、例の女子大生二人組も付いて来たがった。断る理由もないので、私たちは3台の車に分乗して、大変にぎやかにお墓に繰り出した。いたるところに梅の花が咲いていたが、桜はまだだった。ところが不思議なもので、墓地に到着してみると、なんとそこだけ見事な満開の桜がこぼれるように咲いていた。
 「桜さんの歓迎の印ね。」
 遼子はそう言って、にっこり微笑んだ。
 「桜さん、来たよ。みんな、あなたに会いに来たんだよ。」
 その声に答えるように、突然吹いた強い風が桜の花びらを一面に撒き散らした。
 「すごーい!」
 桃子はきらきらした目で空を振り仰いで、両手を広げてくるくる回った。彼女の髪や首筋に桜の花びらがいくつもいくつも降りかかった。
 私たちは、桜さんの墓をきれいに掃除し、水と牡丹餅を供えた。一人一人が心を込めて桜さんの菩提を弔い、供えた牡丹餅をみんなで分けて食べた。子供たちは牡丹餅を手に手に向こうの方へ駆けて行った。女たちは一番よく咲いた桜の木の下まで行って、世間話を始めた。門倉と私は手近な桜の木の下に腰を下ろした。
 私は門倉に、昔桜さんを見たことを話した。
 「湖山翔子が病院で息を引き取った時のことを覚えているか?」
 門倉は煙草を銜えたまま私の方を振り向いた。
 「あの時女の子がいたって言ったろう? お前は全然信じなかったけどな。」
 「ああ、そのことは覚えているよ。で、それがどうした?」
 「堀川家の遺影に写っていた女の子だったよ。髪型も服装も全くそのままだったよ。」
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 思われ-チェリー・ブラッサム・ピンク-
◆ 執筆年 2007年4月1日