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夏の予定

 日は白く、空は青かった。緑の豊かなキャンパスには、日焼けした運動部の学生やテキストを抱えた講義履修者が、忙しそうに歩き回っていた。
 時代の波は大学にも押し寄せている。一昔前と違い、食堂もおしゃれになった。有名店が入っている。品のよい店員が感じよくサービスしてくれる。メニューも彩りが鮮やかで、なによりもおいしい。豊かな時代に生まれた学生たちは、経済的に困ってはいないし、舌も肥えている。昔ながらの、A定食、B定食、C定食、うどんにラーメンというメニューを並べたやり方では、経営が成り立たなくなっているのである。街のレストランやカフェがキャンパスに入った方が、断然学生を集められる。
 薄いスカートをふわふわさせて、女子学生が三人、カフェに入った。
 店内は、空間をゆったりと使っている。白い漆喰の壁面に、薔薇の絵や他にもいろいろな絵が飾ってあり、観葉植物が涼しい気分にしてくれる。
 丸いテーブルを陣取った三人は、フルートやバイオリンやピアノが鳴っているかのように、軽いおしゃべりに夢中になった。
 「海に行ったら、焼けちゃってさあ。見て。皮がむけてきたよぉ。」
 世良桃子は、蒲生茉梨絵と松本小雪に、小麦色に焼けた腕を差し出した。引き締まった細い腕の表面が、よく見るとむけはじめている。茉梨絵は顔を至近距離に持っていき、そっと皮を引っ張った。低い声で憎まれ口をたたく。
 「今週から期末試験が始まるというのに、よく海水浴なんか行くよねぇ。」
 「だって、早くスクーバダイビングのランクを上げたいんだもん。」
 「ウェットスーツを着ていても、焼けちゃうものなの?」
 小雪が興味深げに質問した。
 桃子がにこやかに振り向くと、明るめにカラーリングされた短めの髪がなびき、日の光を受けて透き通った。
 「一日着ているわけないでしょう。」
 「そっか。」
 小雪は仲間との会話を楽しんでいるつもりだが、どことなく語尾が低めの声になっていた。先程の不気味なノートのことが頭を離れないのだ。茉梨絵は、桃子と話す小雪の横顔をさりげなく見ていた。
 (なんか変ね。)茉梨絵は思った。
 「ねえ、ねえ。ダイブにランキングがあるの?」
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ノベル
◆ 執筆年 2008年2月11日