ノベル

3
小雪は、頭の中にある不吉な思いを振り払うかのように、努めて明るく振舞おうとした。桃子は、目下自分が最も重大な関心を持っていることを質問され、得意になって、ダイビングのライセンスについて解説を始めた。
「ダイブの資格って、普通Cカードって言うのね。一口にCカードって言っても、その中にはランクがいろいろあるの。私は、去年の夏に、スクーバダイバーって言う、一番初級の資格を取ったの。今年はなんとしても、その上のランクである、オープンウォーターダイバーを取得したいのよ。」
「へえ、すごいなあ。でも、それを取ると、何かいいことがあるの?」
小雪がさらに訊いた。やはり声の調子がどことなく暗い。そういう小さな変化を見逃さない茉梨絵は、二人の話を聞きながら、小雪のことを気遣っていた。桃子は、小雪のことなど全く頓着せず、ますます得意気にCカードの解説を続けた。
「インストラクターの引率がなくてもコンディションの良い海でなら、自分の計画でダイブができるようになるのよ。本当は、その上のアドバンスドを取りたいんだけど、まあ、だんだんにね。アドバンスドになると、結構深い所まで潜れるのよ。」
小雪は、やはりあのおぞましい出来事が頭に蘇ってきてしまい、"アドバンスドを取りたい"という辺りからは聞かないで、ぼうっとしていた。桃子に返事を促されて、詫びた。
「ごめーん。もう一回言ってくれない?」
「もうっ! ゆきったら、嫌だわ。」
「桃子は頬を膨らましたが、カフェの中が大勢の学生でごった返しているから仕方ないと思っただけで、まだ小雪がいつもとは違っていることに気づかなかった。彼女は、アドバンスドのことまでは相手が聞いていただろうと判断して、その続きの所をもう一度繰り返した。
「だからね、期末試験が終わったら、またダイブに行こうと思っているんだけど、ゆきも一緒にやらないって訊いたのよ。」
桃子の提案を聞いて、小雪の顔は、ぱっと明るくなった。
「いいねえ。でもなあ。ダイブはちょっと怖いな。」
「別にダイブは無理じゃないよ。一緒に海行こ。」
「考えておくね。」
「茉梨絵も行こーよお。」
「私も考えておくよ。それより、ゆき、なんか元気ないよ。どうかした?」
茉梨絵は、切れ長の目で小雪の瞳の奥をうかがうようにした。
「ダイブの資格って、普通Cカードって言うのね。一口にCカードって言っても、その中にはランクがいろいろあるの。私は、去年の夏に、スクーバダイバーって言う、一番初級の資格を取ったの。今年はなんとしても、その上のランクである、オープンウォーターダイバーを取得したいのよ。」
「へえ、すごいなあ。でも、それを取ると、何かいいことがあるの?」
小雪がさらに訊いた。やはり声の調子がどことなく暗い。そういう小さな変化を見逃さない茉梨絵は、二人の話を聞きながら、小雪のことを気遣っていた。桃子は、小雪のことなど全く頓着せず、ますます得意気にCカードの解説を続けた。
「インストラクターの引率がなくてもコンディションの良い海でなら、自分の計画でダイブができるようになるのよ。本当は、その上のアドバンスドを取りたいんだけど、まあ、だんだんにね。アドバンスドになると、結構深い所まで潜れるのよ。」
小雪は、やはりあのおぞましい出来事が頭に蘇ってきてしまい、"アドバンスドを取りたい"という辺りからは聞かないで、ぼうっとしていた。桃子に返事を促されて、詫びた。
「ごめーん。もう一回言ってくれない?」
「もうっ! ゆきったら、嫌だわ。」
「桃子は頬を膨らましたが、カフェの中が大勢の学生でごった返しているから仕方ないと思っただけで、まだ小雪がいつもとは違っていることに気づかなかった。彼女は、アドバンスドのことまでは相手が聞いていただろうと判断して、その続きの所をもう一度繰り返した。
「だからね、期末試験が終わったら、またダイブに行こうと思っているんだけど、ゆきも一緒にやらないって訊いたのよ。」
桃子の提案を聞いて、小雪の顔は、ぱっと明るくなった。
「いいねえ。でもなあ。ダイブはちょっと怖いな。」
「別にダイブは無理じゃないよ。一緒に海行こ。」
「考えておくね。」
「茉梨絵も行こーよお。」
「私も考えておくよ。それより、ゆき、なんか元気ないよ。どうかした?」
茉梨絵は、切れ長の目で小雪の瞳の奥をうかがうようにした。