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7

 彼女は、もう二度とノートを見たくなかった。しかし、もう一度ノートに目を落とすと、可読部分がかなり広がっていて、とても気になった。怖いもの見たさも手伝って、読んでしまった。

  僕は、君みたいな女性がタイプなんだ。二重目蓋の丸い目は、会う人を笑顔にしてくれる。はっきりした濃い眉は、聡明で、活発な印象を与える。エキゾチックで、笑顔の似合う、明るい顔立ち。小柄だけど、手足が長くて、すっきりしている。筋肉が引き締まっているし、つややかな小麦色の肌は、いかにもテニス娘って感じがする。そんな夏っぽい人なのに、名前が小雪。でも、そのミスマッチなところがまた、たまらなく素敵なのさ。

 小雪は、怖いのも忘れて、笑ってしまった。自分の容姿について、ここまでほめられると、さすがにうれしくなる。言葉で表現したことはなくても、自分もそう意識していたから、その感情を満たしてくれたことがうれしかった。しかし、この気持ちは、あまり長続きしなかった。
 (なんで、ここまで私のことを知っているの?)

  フフフフフ。だから、君のことはなんでも知っているって言ったろ。──そうだ。君に言い忘れたことがあるんだ。ここに書かれていることは、僕と君の胸の中だけに留めておきたいんだ。誰かに聞かれたとしても、今日みたいに、そう、今日はとてもうまく答えていたよ、あんなふうになにげなくやりすごしてほしいんだ。もし誰かに言ったら、お仕置きをしちゃうよ。

 「バサッ。」
 小雪はノートを閉じて、首を振った。
 「ぐらぐらぐらぐらぐら、シュー!」
 鍋が噴きこぼれた。彼女はキッチンに走った。
 スープスパゲティーを無理矢理食べた。ゴムかプラスチック製品を喉に詰め込んでいるような気分だった。
 勉強にも身が入らなかった。気が滅入ってどうしようもなかった。
 ベッドに入ってからもずっと考え込んだ。電気製品か何かの微かな物音が聞こえるたびに、体が震えた。
 翌日、学校にいる間、ずっと気持ちが沈んでいた。〝どうしたの?〟と聞かれても、〝なんでもないよ〟などとごまかし通した。茉梨絵の顔を見るたびに、打ち明けたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえた。ノートに書かれた癖の強い文字が思い浮かんだのだ。
 そうやって小雪は、期末テスト終了までの日々を過ごした。身の置き所がなく、生きた心地もしなかった。すーっと露が乾くように、消えてなくなってしまいたいという気さえ起きた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ノベル
◆ 執筆年 2008年2月11日