ノベル

12
告白
遼子の研究室。茉梨絵が、サーバーからコーヒーを注ぎ、全員に配った。遼子の机にできるだけ近づくような形で、皆腰を掛けている。部屋の中央部分の両側の壁に、書店などにある万引き防止システムのゲートのようなものが取り付けてある。ゲートより奥へ入るよう、遼子から指示されたので、皆、このような形で座ることになったのだ。「でも、やっぱり、集中講義の最終日である今日を、午前中で終わりにしておいてよかったわ。ゆきちゃんが、大変なことになっていたなんてね。期末中も集中講義中もここに来なかったし、授業中も冴えない表情をしていたから、おかしいとは思っていたのだけどね。」
「ここへ来るまでも大変だったんですよ。」
桃子が一通りの説明をした。
「やっと、研究室まで来たと思ったら、関さんに、『遼子先生は、さっき帰ったよ。』って言われるし。」
「ごめんね。事務部まで、カバンを持って出かけたから、彼が勘違いしちゃったのね。」
「これも、何者かによる妨害かしら?」
桃子が言うと、遼子もそれに合わせるような返答をした。まだ小雪の口からは何も聞いていないが、先程、廊下で待ちくたびれた桃子が、『出直して来ようか?』と言った矢先に、ちょうど事務部から戻って来た遼子は既に、小雪の気配にただならぬものを感じ取っていた。妙に重苦しく暗いもので、それは普段の小雪には片鱗もうかがえないものだった。遼子が感じたものを既に茉梨絵も感じていた。桃子にはよくわからないが、遼子と茉梨絵に言われて、それを信じている。
まだ、本題に入っていけそうになかった。小雪の目が据わり、体が硬くなっている。余程上手に話を持っていかないとならないだろう。温かい声で小雪を安心させることにした。
「ゆきちゃん、ここは安全よ。悪い心霊とかが入り込めないようになっているの。見て。」
遼子は、両側の壁に設置されているゲートを指差した。
「偶然ね。今朝、門倉さんに取り付けてもらったのよ。まるでゆきちゃんのためにしたみたいよね。」
門倉とは、遼子の夫である芳彦の友人で、自動車メーカーで研究者をやっている男である。小雪は知らないが、桃子と茉梨絵には面識があった。半年ほど前、門倉は家の中で騒動があり、その危難を湯本芳彦とその妻の遼子、そして子の璃鴎に救われたのだ。桃子と茉梨絵もその時に一役買った。そういうわけで、桃子と茉梨絵は、門倉の名を聞いて懐かしがった。