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15

 遼子は慎重に観察した。璃鴎ものぞきこんだ。表紙に、「英語」と書いてあり、さらに、「高岡修平」という記名がある。表紙を開けると、何枚か破り取った跡があり、日記が書かれている。英語の講義に使っていたものを、日記用に切り換えたのだろうか。

   6/9
  哲学で川野と一緒になった。昼飯を一緒に食った。夜、予習した。暑い日だった。

   6/12
  本を買った。夕食後、洋学を聴きながら読む。教授に薦められたのだが、あまり面白くない。洗濯機の調子が悪い。明日、電気屋に来てもらおう。実家に電話して相談すると、その金をなんとかしてくれると言ってくれた。食料品を小包で送ってくれたとのこと。明日着くだろうか。楽しみだ。

   6/13
  夕方、小包が届いた。豊富な食料が入っていた。好物のゼリーもたくさん入っていてうれしかった。とてもきれいな色のゼリーだ。ホーセキにしよう。全部出してみると、かなりの食料があることがわかったので、しばらく安心だ。高木さんの言った言葉が気になる。もう一度誘ってみようか。

 こんなふうに、ノートの半分ぐらいのページまで、不定期に続いていた。内容は取り立てて変わったことはない。授業のこと、級友のことが中心だ。「高木さん」という女性(?)が何度か登場するが、これといった出来事はなかった。裏表紙には小さな文字で、「ST」と記されていた。
 「ゆきのことなんか書いてない。ゆきは、疲れてしまって、いろいろな出来事を、自分で思い込んでいるだけなんじゃないかしら?」
 桃子の推測に、しばらく皆無言になった。
 正直なところ、遼子も茉梨絵も、これが不可解な出来事なのか、それとも桃子の言うように、小雪の妄想なのか、決めかねていた。桃子のように、小雪を病人視するのもためらわれるし、かといって、そう頻繁に不思議な心霊現象が起こるものでもないという冷静な判断もあった。
 遼子は璃鴎の考えを求めた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ノベル
◆ 執筆年 2008年2月11日