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16

 「璃鴎、どう思う? あなたには、このノートに、私たちには見えないものが見えるかしら?」
 璃鴎は硬い表情でノートを見据えていた。彼は少しも視線を動かさずに言った。
 「これを書いた人は、僕を邪魔に思っている。」
 「えっ、何か見えるの?」
  茉梨絵が驚いて質問した。
 「お母さんたちには見えないかもしれないけど、僕には、『お前は消えろ。』って書いてあるのが見える。」
 桃子は、もう一度、目を凝らして日記を読んでみた。しかし、不審なことはなにもない。遼子、茉梨絵にとっても同様だ。
 桃子は、璃鴎のくっきりした顔立ちを注視した。
 「璃鴎君、やっぱりこのノートは普通じゃないのね?」
 璃鴎は無言でうなずいた。
 「このノートの持ち主のこと、何かわかる?」
 茉梨絵の声が急に熱を帯びた。璃鴎は息を詰めて考え込んでいる。ものすごい雨音と雷鳴が響き渡った。璃鴎は長い間じっとしていたが、やがて目を開けた。
 「たぶん、この世にはいないと思う。」
 途端に、爆弾でも落ちたのではないかと思うほどの轟音がした。雷が落ちたらしい。真っ暗になった。
 「キャー!」
 女の子たちの悲鳴で騒然となった。皆、ケータイの明かりで部屋を歩き回った。ブレーカーを操作してもだめだった。小雪の案内で管理人室に移動した。
 「落ちたみたいですね。まったくひどい災難ですよ。」
 「ええ。」
 管理人と小雪がやりとりしている時、懐中電灯の光が急にさした。璃鴎が急に大きな声を出した。
 「このノートを見てもいいですか。」
 偶然懐中電灯が照らしたカラーボックスの上段に、賃貸台帳というノートがあったのだ。
 管理人は簡単に承知した。台帳には横書きで、借家人の氏名や住所などが書き込んであった。遼子がしばらくめくっていくと、見覚えのある名前が出てきた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ノベル
◆ 執筆年 2008年2月11日