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18

 「先生、とにかくこの高岡って言う人に電話をしてみませんか?」
 桃子は、異説を唱えることなど許さないという勢いを発散していた。
 遼子は、ケータイに数字を入力しながら、璃鴎の横顔を見た。
 「璃鴎、電話をしてみるけど、何か聞いてみたいことがある?」
 「お母さん、僕から聞きたいことは思いつかないよ。」
 彼は、穏やかな表情に戻り、口元をほころばせていた。
 「あ、もしもし……。」
 電話が通じたので、女の子たちからうれしそうな声が洩れた。
 電話の主は、高岡修平本人ではなくて、その母親だった。
 「実は、私は息子さんの出身大学で准教授をしているのですが、当時の学内の状況を研究するために、修平さんにインタビューをさせていただきたく思っているのです。」
 遼子は、相手に怪しまれないように話を作った。彼女はこういったことが得意なのである。桃子と茉梨絵は顔を見合わせて笑った。
 「先生の十八番が出たねえ。」
 桃子は囁いた。遼子が軽くにらむ。
 暗い中を、懐中電灯とケータイの光に照らされながら、彼女たちが顔をつき合わせているのは、異様な光景だった。
 「そうなんですか。新潟市で弁護士をなさっていらっしゃるのですか。電話番号を教えていただいてもよろしいですか。ありがとうございます。」
 「ちょっと、生きてるじゃない?」
 さっき、璃鴎に、死んでいるはずだと言われたから、高岡が弁護士をしていると言うのは意外なことで、そのことを桃子は不満に感じた。
 「生きてて悪いみたいじゃない?」
 茉梨絵はたしなめた。
 「だって。」
 桃子が璃鴎の顔に目を留めたので、璃鴎は何か言わなければならないような気がした。
 「僕の勘が当たるとは限らないですし、直接聞けば、何もかも明らかになるはずですよ。」
 「それもそうよね。」
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ノベル
◆ 執筆年 2008年2月11日