ノベル

本
prev

20

「この事件とは関係はないと思うんですけど、個人的に興味を感じることがあったんですよ。」
 「教えて、教えて。」
 肩を触って迫る桃子に、璃鴎はぺこんと頭を下げた。
 「桃子さん、ごめんなさい。でも、もしも何かわかったら、後で教えます。」
 璃鴎の意志の固さを知っている桃子は、ずるいーと言いながら、日記をむやみにめくり返して、うん、うんとうなった。
 高岡から電話が掛かってきた。予約が取れた。遼子は再度、丁重に礼を述べた。璃鴎の質問を、学術調査らしく仕立てて発した。こういう芸当は彼女の得意とするところだ。高岡によると、大学の四年間以外は新潟に暮らしているし、両親に限らず、高岡家は代々この地域に住んでいたそうだ。
 電話を切った後、遼子からそのことを聞いた璃鴎は、一人でにこにこしながら、また何か別のことを考えていた。
 玄関ホールで声がして、電気工事の技師が二人やってきた。停電はまだ続いている。まともに雷の直撃をくらってしまったんだろう。
 遼子は管理人に暇を告げた。ついでに、賃貸台帳を借りたいと願い出た。管理人は少し困った顔をしたが、必要な部分だけコピーするのなら構わないと答えた。遼子は少し考えて、手帳に書き留めることにした。
 外はまだ強い雨が降っていた。台風が近づいているのだ。
 「桃子、明日からダイビングに行くんじゃなかったの?」
 遼子の車の右側の後部座席で、茉梨絵が訊いた。
 「台風が来るっていう予報を聞いて、昨日のうちにキャンセルしたから、大丈夫よ。」
 後部座席の真ん中に座った桃子が、明日の調査に期待を膨らませて言った。
 小雪は、とてもではないが、自分の部屋に戻れるはずがなかったので、遼子が引き取った。帰宅して、夫の芳彦に詳細を話すと、彼も同情した。芳彦は、璃鴎も新潟に連れて行った方がいいと主張したが、現在までの調査の進展ぶりを聞いて納得した。彼は明日奈良県で行われる王朝文学関連のフォーラムの発表に備えてリハーサルやら準備やらをしておかなければならないと言った。悪いけどと言って、そそくさと夕飯を済ませると、璃鴎にも早く寝るように言い、風呂に入った。小雪がしきりに怖がるので、遼子は彼女を璃鴎の部屋で寝かせた。
 「璃鴎君と一緒だと不思議に怖さが消えるの。明日も新潟に行ってくれるといいのに。」
 「母がついているから、絶対に平気ですよ。」
 璃鴎はにっこりと微笑んで、照明を落とした。
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 ノベル
◆ 執筆年 2008年2月11日