安部礼二小説作品集

25

　彼女は妙に気になって、ドアをわずかに開けた。細い隙間から彼らの様子がよく見えた。一人暮らし用の小さな冷蔵庫は元の場所に置かれたままだった。作業員たちはその前にあるテーブルによく光る長いものを置き、椅子に座ってしきりに手を動かしていた。小雪は我が目を疑った。今まで実物は見たことなかったが、どうもその長いものは日本刀のようなのだ。骨ごと胴体を輪切りにできそうなほど、見事に鍛え上げられていた。それがさらに砥石で研がれて青光りしていた。
　男たちはドアが開いたのに気づいた。そして無言で近づいてきた。目が据わっている。一人は研いだばかりの刀を手に提げ、一人は鋭い音を立てながら鞭を振っていた。鞭を音高く振り下ろすたびに、部屋の中のものが壊れた。
　小雪は悲鳴を上げて、ドアから離れた。彼女はとっさに璃鴎の考案した霊体バリアーを思い出し、バッグから取り出して体につけた。効果はあった。
　「あれ？　あの女、どこへ行った？」
　男たちは小雪のいる部屋に入って、しばらく辺りを見回した。が、すぐに手当たり次第に、刀を振り回したり、鞭で打ったりし始めた。小雪はかろうじて彼らの隙をかいくぐって、玄関続きの部屋に進もうとした。
　すると、男の一人が身も縮むようなことを言った。
　「おい。俺は玄関前で鞭を振ってるよ。」
　部屋の隅の壁にぴったり身を寄せながら、ゆっくりと進んでいた小雪が、それを聞くや否や慌てて玄関に二、三歩走りかけた時には、彼は玄関前に陣取って、早速下駄箱の上の花瓶を打ち砕いていた。
　小雪は素晴らしいことを思い出していた。このアパートのキッチン付近には、管理人直通の警報ブザーがついている。部屋の中にいる暴漢に気づかれない位置に設置されていて、室内では何の音もしない。何と幸運なことか、ブザーは彼女のすぐ近くにあった。正確に言うと、ブザーがあるのが目に留まったので、小雪はブザーがあったことを思い出したのだ。彼女はそっと心の中で神にお礼を言いながらブザーを押した。
　程なく管理人は、呼び鈴を押してから、鍵のかかっていないドアを開け、薄ら笑いを浮かべながら入ってきた。